第一章・―炎の魔女―

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 暗闇が迫る。  炎が総てを燃やし尽くし、街だった場所が焼け野原と化した頃には、サラマンドラの興味も失せていた。  (きびす)を返すと、周囲に風が発生する。  その渦中にサラマンドラが身を委ねた時には、すっかり姿は消え失せていた。  ――そして、次に姿を現したのは、何処か地の果てにある。鬱蒼(うっそう)とした森の外れであった。  側にはみすぼらしいが、辛うじて建っているといった木造りの小屋があり、ドアを開けて入って行く。  この小屋が、サラマンドラの棲み家であった。 「……」  中は木造りのテーブルと椅子、そして暖炉。後は生活に必要最低限の食器などが揃っているだけの、実に質素なものだ。  ただ一つ、異質なものが窓際に置かれている。  漆黒に染められた大きな壺に張られた水鏡で、サラマンドラはそれを覗くと呟いた。 「次で、最後」  瞬間、水鏡が揺れてとある景色を映し出した。  活気の溢れる街並み。笑顔を浮かべる人々。明るい空に、何より総てが幸せに満ちている。   舌打ちする。  幸せな光景は、今の魔女にとって、何より厭うべきものだ。  壊してやりたい。幸せな人間共に、制裁を加えてやりたい。  だが、その前に目的を果たさなければ。  映し出されたのは、最後の標的がいる場所。 「……サウスパレス王国」  そこには、一介の騎士ながらも、生きながら半ば伝説と化した、国を護る手強い男がいるという。  世俗を厭う、サラマンドラですら知っている。  彼は、魔女が目的を果たすまでの脅威と成り得るだろうか?  例えそうだとしても、やらなければいけない。  最後の標的はサウスパレス王国にいると示された。  ならば休んでいる暇などない。  魔女は周囲に発生した風と共に、再びその場から姿を消した。
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