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暗闇が迫る。
炎が総てを燃やし尽くし、街だった場所が焼け野原と化した頃には、サラマンドラの興味も失せていた。
踵を返すと、周囲に風が発生する。
その渦中にサラマンドラが身を委ねた時には、すっかり姿は消え失せていた。
――そして、次に姿を現したのは、何処か地の果てにある。鬱蒼とした森の外れであった。
側にはみすぼらしいが、辛うじて建っているといった木造りの小屋があり、ドアを開けて入って行く。
この小屋が、サラマンドラの棲み家であった。
「……」
中は木造りのテーブルと椅子、そして暖炉。後は生活に必要最低限の食器などが揃っているだけの、実に質素なものだ。
ただ一つ、異質なものが窓際に置かれている。
漆黒に染められた大きな壺に張られた水鏡で、サラマンドラはそれを覗くと呟いた。
「次で、最後」
瞬間、水鏡が揺れてとある景色を映し出した。
活気の溢れる街並み。笑顔を浮かべる人々。明るい空に、何より総てが幸せに満ちている。
舌打ちする。
幸せな光景は、今の魔女にとって、何より厭うべきものだ。
壊してやりたい。幸せな人間共に、制裁を加えてやりたい。
だが、その前に目的を果たさなければ。
映し出されたのは、最後の標的がいる場所。
「……サウスパレス王国」
そこには、一介の騎士ながらも、生きながら半ば伝説と化した、国を護る手強い男がいるという。
世俗を厭う、サラマンドラですら知っている。
彼は、魔女が目的を果たすまでの脅威と成り得るだろうか?
例えそうだとしても、やらなければいけない。
最後の標的はサウスパレス王国にいると示された。
ならば休んでいる暇などない。
魔女は周囲に発生した風と共に、再びその場から姿を消した。
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