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「……今何と言った?」
広い部屋に、しっかり磨き込まれ、姿さえ映せそうなテーブルと椅子。
そして、傍には上着掛けがある、実に質素なインテリアの部屋主である青年が、声をあげる。
漆黒の髪と瞳を持ち、そして羽織るマントも漆黒という、とてもシックな出で立ちの青年だ。
「君はしばらく逢わない間に、とても耳が遠くなったのかな?」
対峙するのは、ハニーブロンドの瞳と髪を持つ、柔らかな外見の青年である。
「殴るぞ」
にこりと笑いながらも、不穏な台詞を吐くのに、それでも怯まない。
「やれやれ。冗談だよ。本当に君は真面目だなぁ、カイル」
「……」
ハニーブロンドの瞳を細め、あくまでもからかう姿勢を崩さない青年が、漆黒の瞳を向けている青年……彼に対して笑みを浮かべる。
「だからさ、気を付けたまえよと言っているのだ」
「だから何をだ?」
「知らないかい? 最近世間を騒がしている、火災騒ぎを」
言われてしばらく考える風を見せていたが、やがて顔を上げた彼が返す。
「……知っているが、どう気を付けろと?」
「危険がこの国にも迫っているよ」
「は?」
意味が全く分からずに、益々声を荒らげる彼に、あくまでも青年は落ち着いた様子で続けた。
「君なら知っているとは思うのだけれどさ、“炎の魔女”を」
「“炎の魔女”? 寝物語ではないのか? 千年近くは姿を見せなかった魔女の伝説は聞いている」
ようやくの事で会話が成り立つ。
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