第二章・―騎士と魔女―

2/6
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
「……今何と言った?」  広い部屋に、しっかり磨き込まれ、姿さえ映せそうなテーブルと椅子。  そして、傍には上着掛けがある、実に質素なインテリアの部屋主である青年が、声をあげる。  漆黒の髪と瞳を持ち、そして羽織るマントも漆黒という、とてもシックな出で立ちの青年だ。 「君はしばらく逢わない間に、とても耳が遠くなったのかな?」  対峙するのは、ハニーブロンドの瞳と髪を持つ、柔らかな外見の青年である。 「殴るぞ」  にこりと笑いながらも、不穏な台詞を吐くのに、それでも怯まない。 「やれやれ。冗談だよ。本当に君は真面目だなぁ、カイル」 「……」  ハニーブロンドの瞳を細め、あくまでもからかう姿勢を崩さない青年が、漆黒の瞳を向けている青年……彼に対して笑みを浮かべる。 「だからさ、気を付けたまえよと言っているのだ」 「だから何をだ?」 「知らないかい? 最近世間を騒がしている、火災騒ぎを」  言われてしばらく考える風を見せていたが、やがて顔を上げた彼が返す。 「……知っているが、どう気を付けろと?」 「危険がこの国にも迫っているよ」 「は?」  意味が全く分からずに、益々声を荒らげる彼に、あくまでも青年は落ち着いた様子で続けた。 「君なら知っているとは思うのだけれどさ、“炎の魔女”を」 「“炎の魔女”? 寝物語ではないのか? 千年近くは姿を見せなかった魔女の伝説は聞いている」  ようやくの事で会話が成り立つ。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!