▲▼3プレイ

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▲▼3プレイ

疫病神を見つけた僕がとった行動はまず、疫病神の向かいにあるゲーム機の席に座ることであった。なぜ話しかけないのかと思うかもしれないが、理由としてはまずこんな雑音だらけの環境で声をかけても何を言っているのか分からずにかき消されてしまうと思ったからだ。僕は接客業をしてきたとはいえ、そこまで大きな声は出ない。むしろ少し小さい方である。周りからはよく働く真面目な人と見られるかもしれないが、声の小ささだけはどこに言っても注意されてしまう。僕も僕で大きな声を出すように意識しているのだが、流石にこんな雑音が邪魔をされては大きな声を出したところで聞こえないのだ。次の理由として、マナーの問題だ。疫病神は現在、熱くゲームをプレイしている。そんな時に声をかけられたら集中している時に何邪魔しているんだよと思われたくないからだ。いくら疫病神が相手だからと言ってゲーム中に声をかけられたら嫌なものである。僕も同じだ。ゲームをしている時に横から声をかけられたら良いところだったのに! と、声をかけた人に八つ当たりしてしまうだろう。例えるなら電話中なのにお構いなしに横からかけて来る人にムッとなる感覚と一緒である。状況を考えろよと空気を読めるか読めないかの問題になってくるのだ。僕は最低限の空気は読んでいるつもりだ。むしろ常に人の顔色を伺っているような感じである。その為、僕は空気を読んで向かいのゲーム機の席に座ったのだ。次になぜここに座ったのかというと、疫病神はゲームに集中しているのであれば、同じ環境で語り合おうと思ったからだ。ただ疫病神のプレイが終わるまでひたすら待つのも退屈であるので、向かいの席同士であればお金を入れれば自動的に対戦ができる。疫病神はひたすら勝ち続けているので、どこかで負けなければ辞めることはない。僕は負けるのをただボーっと待っていることはしたくない。だったら僕が勝って辞めさせてやろうと考えたのだ。ゲームをしているのであればゲームで語ればいいということだ。僕は早速、百円玉を投入口に入れてプレイを開始させる。同時に向かいにいる疫病神と対戦が始まった。キャラを選択し、フィールドを選択して準備は整った。今に見ていろ! と思いながら僕の興奮はピークに達する。同じゲーム好きとして僕の方が一枚上手だということを思い知らせてやるつもりだった。  試合のコングはキーンと鐘が鳴り響く。勝負は三本制で先に二勝した方の勝ちである。僕は十字キーをすくうように持ちながら操作する。自分が思い描いたようにキャラは動いてくれるが、うまくいかないことに気がつく。疫病神はどのように操作しているのか、全ての動きに無駄がない。的確に僕に攻撃を仕掛けて来るのだ。みるみると僕の体力であるゲージは赤くなっていく。まるで金縛りにあったかのように思い描いた通りに動いてくれないのだ。僕はなすすべもなくやられてしまった。瞬殺である。考えてみれば負けるのも無理もない。相手は疫病神で毎日のようにゲームをして鍛えてきている。それに比べて僕は気が向いた時にしかやらない。その経験のせいもあって僕は連敗だった。向かいなのでここからでは疫病神の顔は見えないが、おそらくドヤ顔をしているのは確かである。対戦相手を直接倒したのだから快感は凄まじいだろう。僕は悔しくて再び投入口に百円玉を入れて再チャレンジをするのだが、やはり結果は惨敗。一勝することすらできなかった。実力の差を見せつけてやろうと思ったのだが、こっちの方が実力を見せつけられてしまった。これ以上チャレンジしても勝てる気がしなかった。疫病神は本物のゲーム好きだということはよくわかった。 僕が敗北した瞬間、疫病神は席を立った。勝利したら続けてプレイができるはずなのになぜゲームを止めて立ち上がったのか疑問に感じる。トイレか、それとも小腹が空いて休憩に出たのか。もしかしたらいつものようにゲームに飽きたから別のゲームに移るために投げ出したと想像が付いた。こんな勝ち逃げをされるなんて僕は認めない。そんな事を思っていたら疫病神は席を立ち上がると僕の方に近づいて来たのだ。僕の前に立った疫病神はこう言った。 「君、さっきは良いプレイだった。しかし、そのキャラは強いけど扱うのにはもう少しコマンドを覚えた方が良い。さっきから必殺技のタイミングも逃しているから損だと思うよ。まぁ、慣れが一番大事だよ。頑張って」 「あ、ありがとうございます」  僕は咄嗟に、反射的に疫病神にお礼を言ってしまった。しかも、ゲームのプレイに対してアドバイスまで言われる始末に僕は情けなく思う。なんでこんなやつにそこまで言われるのかと。僕はこのゲームをするのは初めてというわけではない。何回かしたことはある。だからできない訳ではないが、極めているまでには達していない。そのことで疫病神はわざわざ僕に言いに来たのだから屈辱的にも感じる。疫病神は言うことは言ったという感じで席に戻ろうとする。僕は疫病神を呼び止めた。 「あの、この顔に見覚えありませんか?」  僕は自分の顔に指を差しながら言った。 「……? どこかで会ったことありましたか?」  疫病神はじっくりと僕の顔を見るも、まるで知らないといった態度であった。その様子に怒りが込み上げそうになるが、そこは一人の大人として冷静を保った。 「どうでしょうか。会ったことがあると言えばあるかもしれないし、会ったことがないと言えばないのかもしれなせんね」  と、僕はあえて勿体振るような言い方をして疫病神の反応を伺った。疫病神は再び僕の顔をじっくり見る。人にこんなガン見されるのはあまり好きではないが、ここは僕のことを思い出させるためには仕方がない。僕は目線から逸らすことなく疫病神を睨みつけるように見た。ここまで見れば流石に分かるだろうと疫病神の言葉を待った。そして 「あ! もしかして僕のファンだったりします?」 「はい?」  僕は拍子抜けしたように声を漏らす。僕が疫病神のファンだって? 冗談にも程がある。なんで僕の職場を潰した張本人である疫病神なんかにファンでいなくてはならないのだ。そもそもなんのファンというのだろうか。あれか? ゲームのファン?  「あれ? 違ったかな? 悪いけど覚えがないや。だから会ったことがないということでいいかな。うん」  と、勝手に疫病神は会ったことがない初対面ということにされてしまった。ここまで引っ張ってなぜ思い出せないのか疑問だが、しかし、疫病神に嘘を付いているようには見えない。もしかしたら疫病神はゲームができたらそれでいいので店員である僕には眼中にないのかもしれない。働いていた時は雑用ばかりだったので直接関わったのは数回しかないのだが、それでも言葉を交わしたことがあるので覚えていないということは僕の存在感がなかっただけということになるのだろうか。まぁ、パッと見、丸めがねに黒髪のストレートという特徴がない僕はその辺の一般人にしか見えない。そこは仕方がないと言ってしまえばそれまでである。 「そうだ! 腹減らないか? 近くの牛丼屋に食べに行こうと思っているんだけど、一緒にどうだい?」  と、疫病神は気まぐれに言ったのか何故か僕を食事に誘ったのだ。 「そうですね。僕もお腹空いたところです。行きましょうか」  僕は疫病神に存在を思い出させる為にもここは誘いに乗った。今度こそ正体を知らせて謝罪させると誓った。  時刻は十四時になったところである。僕は疫病神とともにゲーセンを出たすぐにある牛丼屋に向かった。
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