▲▼8プレイ

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▲▼8プレイ

とあるゲームセンターの外で初の動画撮影が始まろうとしていた。段取りの打ち合わせは事前にしてあるので後は撮るだけだ。 「そんな緊張しなくてもいいから。友達と動画撮っているって考えてもらえばなんとかなるから気軽にいこう」  神谷は軽い感じで言う。僕は動画を撮りながら喋っていくだけだから神谷よりは緊張しないけど、これがネットに広がると思えばかなり緊張する。 「じゃ、カウントよろしく」 「そういえばさ!」  僕は神谷の言葉を遮った。 「これ、ゲーセンで撮影するんだよね?」 「そうだけど?」 「店の許可は取ってあるの?」 「鈴木。友達と記念に写真や動画を撮る上でいちいち誰かの許可を取るか? 景品が取れる喜びを分かち合うのに他人の許可がいると思うのか? 違うだろ! 喜びは身内だけの共有だ。他人が踏み込んでいい領域ではない。そうだろ?」  つまり、神谷は店の許可を取っていないということである。僕は不安そうな顔をして神谷を見る。 「大丈夫だよ。撮影禁止なら普通、店の外に注意書きで書いてあるだろ。だが、そんなものは見当たらない。と、いうことは別に撮影してもいいってことだよ」  神谷の理論は「○○をしてはいけない」と書かれていなければ何をしても大丈夫ということだった。そんな無茶苦茶な理由で撮影をしようしているらしい。僕は少しどうかと思うけど、まぁ、ここは神谷の言うことに従おうと思う。 「カウントいきます。五秒前――四、三、二、一……スタート!」  僕は神谷にカメラを向けて撮影を開始した。 「はい! どうも! お初です。今回からクレーンゲームの解説動画を上げていきます。司会進行のクレーンゲームの神の達人ことカミタツです。以後、よろしくお願いします☆ そして、ワイの相棒の……」 「スートンです。解説役をします。よろしくお願いします」  僕は演説をするかのように落ち着いた口調で挨拶をした。 「はい! と、いうわけで、二人で立ち上げていきますので今後ともよろしくお願いします。では早速プレイをしていきま……しょうタイム!」 「はい。カット」  僕はビデオを止めた。神谷は無理にチャラ男みたいな口調で挨拶をした。まさか動画ではそのキャラで通すのかと僕は不安が募る。 「よし。次は現場に行こうか」  僕たち二人はゲーセンの店内に入った。そして、神谷は撮影する為の台を厳選する。店内のものを一通り回った神谷は一台の台に視線を送る。 「これにしようか」  神谷が選んだ台はフィギュアが入った箱の景品だった。今、人気アニメのヒロインのフィギュアである。置き方としては突っ張り棒が二本、斜めになっており、箱が横に置かれて左に向かって徐々に間が広くなっているもの。一般的に考えればアームで少しずつ左に移動させて回数を重ねて取るタイプのものとして伺える。 「鈴木! これを一回で取るからしっかりと撮影していてくれ」  なんと神谷はこれを一回で取ると宣言した。どう見てもこれは回数かけて取るタイプのもの。それを一回で取るというのだから本当にそんな事が可能なのかと思ってしまう。しかし、神谷は取ると言ったら必ず取るのだ。何と言ったって神谷のクレーンの実力はずば抜けているのだ。 「五秒前、四、三、二、一……スタート」 「はい! と、いうわけでこちらの景品を取りたいと思います。それと皆さんに宣言します。こちらの景品――これ一枚で取りたいと思います」  神谷はカメラに向かって百円玉を突きつけながら言った。僕だけではなく、カメラに向かっても宣言したので余程の自信があるのだろう。神谷は百円玉を投入した。お金を入れた後の神谷の目はさっきまでの穏やかな感じとは違って真剣そのものだった。無言で操作する神谷は僕が解説を加えていいのか迷いながら言う。 「こちら、回数を重ねてずらしていくタイプに思われるがどのように取るのか緊張が高まります」  と、思ったことを言った。  アームは箱の右端に狙いを定めて降下する。アームは降下する力で箱を押して一回転させて取り出し口に落ちていく。神谷は宣言通りに百円でフィギュアを取ってしまったのだ。 「こんな感じで取れました! では続きまして……」 「はい、カット」  僕は話の途中で打ち切るように止めた。 「なんで止める!」  神谷はこれから何かが始まろうとしていたところを止められて不服そうに言った。 「確かにクレーンゲームで景品を取っていく動画は面白いかもしれないけどなんか普通過ぎない?」 「普通の何が不満なのさ」 「なんていうか、こう――見ていて面白いというか、何か目的を絞って動画にするようなことというか……見る人の求めている何かを動画に盛り込むことが必要かなって」  僕は途中から自分でも何が言いたいのかわからなくなっていた。 「目的……視聴者の求める何か……うーん」  神谷は僕が出した単語を拾って考えた。言いたいことは伝わってくれたのだろうか。 「あ、そっか!」  神谷は何か閃いたように言った。 「鈴木! 視聴者の求めていることがわかった。さっそく撮影の準備をしてくれ!」  そう言って神谷は別の台に移った。
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