The lover is a chick

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―― 十年前、後藤 司と“野木 清明”は友達だった。 今でいう携帯電話とかってモノが無かった時代 俺達が暮らす田舎では娯楽なんてもん無かったけどバカな事も沢山したし、警察の厄介になる事も時々くらいはあった様な気がする、ソレでも笑って楽しく暮らしていた。 清明と俺は正反対の性格をしていて、俺は町一番の問題児的な存在で清明は物静かな真面目ちゃんだったけどイカれていた。 アレは…そう、中学二年の夏の頃だったな クソ暑い教室の中で窓を開けて寝る気にもなれず珍しく俺が授業を受けている時、清明はいきなり席から立ち上がったかと思うと開いていた窓から身を乗り出し下へ落ちて行った。 そりゃ教室中は清明がいきなりそんな事したからざわめき出して 女子は悲鳴を上げ 冷静な判断を取らなきゃいけないはずの教師でさえ慌てふためいていた。 誰も窓の外を見ようともしない中、俺一人が清明が落ちた窓に近づき下を見ると驚く事に二階から落ちたっていうのにあいつは傷一つなくて淋しそうに空を眺めていたのを覚えている 自分が落ちた事にも気付かないで初めからその場に居たみたいにボゥっと突っ立って空を見上げていたその姿がなんだか可笑しくて俺は笑ってしまってその時、清明と目が合った事がきっかけであいつとつるむ様になった。 田舎に住んでいる奴か住んでいた奴なら分かるだろうが、田舎じゃ悪い噂も良い噂も回るのは早くて飛び降りをしたあの日から清明は学校中から遠巻きに見られて俺とつるんでいるって事もあって誰も話しかける事をしなくなった。 教師は自分の教育方針が悪かったんじゃないか?って一人勝手に悩んで清明と顔を合わせる度に泣いて、最終的にはもう精神的に参ったからって教師を辞めて故郷に帰って行ったけど 別にだからといって清明はなにも変わる事はなく、物静かに教師が辞めるのを見送っていた。 俺はと言うと自分のせいで教師が辞めていこうとしているのにどうしてなのか理解出来ずに静かに見送っている清明の横顔がなんだか可笑しくてずっと笑っていた。 …清明は本当に物静かな奴だった。 絵が好きらしくて美術室にこもり気味だったが、俺がどんなに邪魔をしても怒る事は無かった。 俺達は教室や外の世界より美術室に居る事が多かった様な気がする 清明は毎日、毎日なにがそんなにも楽しいのか空の絵ばかり描いて俺はそれをタバコを吸いながら見ているだけ 手休め程度にどうでも良い話を転々としていたかと思うといきなり絵を描き出して また、手を止めたかと思うと清明は自分の気持ちを言い出したり真面目な話をしていると思えば明日の晩飯はなにかな?とか聞いて来たり 本当に物静かな奴ではあったが、可笑しな奴で表情もテンションの問題なのかあったり無かったりで俺的には清明を見ているだけで楽しかった。 俺の機嫌が悪い時でもお構い無しに話をふっかけて来るその根情も気に入っていたし、俺が誰かと喧嘩して血を流した所で怖がる訳でも無くかと言って心配する素振りすら見せなかった事にも俺的には気に入っていた。 清明はまるで人形の様だなって思ったのもその時だったかもしれない 心が無い人形とでも言うのか…なにかを考えている様に見えて実はなにも考えて居なくて 人形だと思えば空を見上げた瞬間、どこかに走り出して追いかければ高い場所から飛ぼうとして、地面に着地するとまた空を見上げて教室で飛び降りたあの日に見せた表情を見せ 空を飛ぶ事に憧れているヒナみたいな悲しい瞳をしていた。 それを俺はずっと見ていたら空ばかり見上げていた清明はいきなりあんな事を言い出して…鳥になりたいなんてこいつが考えそうな事だと納得してしまった。 頭の悪い俺にだって清明が淋しいんだって事には気づいていた。 こんなにも近くに俺が居るのにいつも清明は一人きりの様に心を閉ざし、飛ぶ事で“野木 清明”の人格を保ってるんだなって事には気づいていたけど俺にはどうする事も出来ないから見て見ぬふりをして笑い続けた。 その翌年、清明の祖母が亡くなった。 清明は、泣き声をあげる事もしなかったが、俺は清明が悲しみのどん底にいるんだって事に気づいていた。 でも、助けてやれなかった。 祖母は骨に変わり白い骨壷の中に入ってしまったのを見て清明はボソリと俺に“大好きだった”と呟いていた。 その時も俺はあいつにかけてやる言葉すら見つからず…助けられなかった。 それから清明の飛び降りる回数は増えて行った。 飛び降りる回数が増え、高さも高くなり…あいつは俺の知らない所で飛び降りて足の骨を折った。 病院に駆けつけると清明は病院のベッドの上に座って俺を見つけた瞬間、笑っていたんだ その時、俺は自分自身の罪を思い知らされた。 唯一、清明の変化に気づき…傷付いていた時、言葉をかけれたはずだった。 言葉が例え出てこなくても他に解決策はあったはずだ それを俺は、見て見ぬ振りをした。 俺に向けられる笑顔に光は見えず、清明は壊れてしまった・・・―― 清明が苦しんでいる時に助けてやれなかった自分の不甲斐なさと命が助かった安心から胸は苦しくてバカみたいに声を出して泣いた。 散々泣いた後、清明のベッドで一緒に眠り…清明の体温に安心した反面、怖かった。 病室で目が覚め、俺の目に映ったのは“いつも通り”に戻った清明だった。 俺に笑いかけるその姿は、壊れた表情ではなく“いつも通り”振る舞う その時に、気付くべきだったんだ…でも、それだけ俺達はガキだった。 俺は、清明が元に戻ったと思ったし…清明は、自分の変化に気づいていなかった。 清明は、退院してから飛び降りる回数は次第に少なくなって行き表情や言葉も大きく変わって来た。 中学を卒業するとなった頃には清明は良く笑って良く話す様になった。 でも、その頃から歯車は大きくズレていく いや…元に戻ってしまったんだと思う バカな俺は高校に行ける頭があるはずもないから親父のツテで車の整備をする会社に入って働いていると三ヶ月後、会社に掛かって来た一本の電話によってまた俺は病院へと走って行く事になってしまった。 清明は私立の進学校へ進んだが今度はなにが淋しかったのかまた、飛び降りを初め今度は確実に死ねるだろう高さの場所から落ちた。 でも、人間がそんなすぐに死ねるはずもなくなんとか命だけは取り留めた清明は俺を見つけるとあの頃に見せた笑みをつくり こんなすぐに同じ体験をするとは思ってもいなかった。 だが、前回と違う点が一つだけ出来てしまい その日を機会に俺達は友達じゃなくなった――
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