The lover is a chick

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「あおい!」 「あぁ~!お兄ぃ達、来てくれたんだ!」 式場に着くと待合室に入るなり清明の妹の碧は真っ白なウエディングドレスに身を包み嬉しそうに俺達の元まで駆け寄って来た。 「おめでとう」 「入籍から五年後の結婚式ってお前バカだろ?」 「あの時は子供を育てる事に手一杯だったのよ!でも、今なら壱成も大きくなったし式開いたって良いじゃない?」 清明がふんわりと妹の花嫁姿を見て嬉しそうに笑っている横で俺は冗談っぽくそう言うと隠す事無く慣れた返答が返って来た。 俺達より二つ下になる清明の妹の碧は旦那には猫を被っているが相当な計画犯で好きな人と結婚する為だけに十六の時、子供を宿し出来ちゃった婚に持ち込んだ俺よりも性格がひん曲がっている女でもある 「碧、壱成が…あっ、お義兄さん達お久しぶりです!」 「噂をすれば仁志のお出ましかぁ~」 「え?」 「なんでもないのさ!ボク達もうあっちに行くから!じゃ、二人共おめでとう」 ニヤニヤ笑って俺達の義弟になった仁志の顔を見ていると俺がいらん事でも言うと思ったのかいきなり清明は俺の腕を取って部屋の外へ連れ出すと扉を閉める前にそう言い 言ったと同時に扉はパタリと音をたて閉められた。 「別にお前の妹の本性バラしたりなんかしねぇって!」 「分かってるけどさ…なんかさ…」 お前がなにを考えているかなんて言わなくても分かってるよ お前は昔、頭逝っちまっててその事で家族や妹の碧にはすっげぇ迷惑をかけて来た。 今まで自分のせいで不幸にさせていた分、幸せな今を壊したくないんだろ? 「式までまだ時間があるし、外でも歩くか」 「う、うん」 こいつからすればこの場所に来る事がどんなにストレスを溜めている事か知らない訳じゃない 男と女しか結婚出来ないこの日本じゃ俺達はどう足掻いたって本当の夫婦になれるはずもなくて今がどんなに幸せでもそれが間違っている事なんだって世間は思っている 満足に外で手を繋いで歩く事も出来ず、デートらしいデートも出来ない そんな世間の見方が清明のストレスになって溜めない様にはしているみたいだが、どんなに前からここに来る事を楽しみにしていても現実を見ると恐れている それでも共に居れるだけで良いと、この関係を望んだのは他ならぬ俺達だ 二度目の病院を退院してから俺達は約束通りいつも一緒に居た。 一緒に住むのは、清明が高校を卒業してからって決めていたが…俺は、出来るだけ清明の隣に居る時間を作った。 俺に時間が作れない時は、清明が俺の仕事先に来て仕事が終わるのを待ち 待っている間、清明は絵を描いていた。 「つ、司…ボク、パリに行きたくないよ」 「ベンチあるしちょっと座ろうぜ」 ただ、昔のように俺達は時間が流れて行くんだって思っていたのに 清明の描く絵が賞を取ってからあっという間に清明は、有名になっていった。 本人が望まなくても一枚絵を描けば、それが札束になって返ってくる現実 清明は絵の展示会を開く為に断り切れなくてパリに一週間行く事が決まり、それにも強いストレスを感じている 外に出るなり案の定、俺が予測していた言葉が清明の口から呟かれタバコに火をつけながら俺はそう言い二人して肩を並べてベンチに座ってみたが言葉は交わされない 別に清明は初めてパリに行く訳ではないが、今回ばかりはこいつが行きたくないとワガママを言う理由に心当たりがある 画家として名を上げ、世界中を回って来たがその度に俺が同伴してついて行っていた。 でも、今回ばかりは俺の仕事の関係で付いて行く事が難しくどうする事も出来ないから余計清明はストレスを感じ 俺がいなきゃこいつは何一つとして出来なくて有名な画家になった今でもそれは変わらない… 俺の存在が目に映らないと安心出来ず一人きりになると不安を覚えストレスを感じる そうであって欲しいと自意識過剰や自惚れでそう言っているんじゃない 一度目の病院に運ばれた時から清明の精神は不安定なままだ そうさせたのはこの俺なのかも知れないが、このままじゃいけないと最近になって思う様になって今回俺はわざと仕事を入れヒナを飛び立たせる事を決めた。 いつまた、飛び降りるか分からないが…分からないからといってこのままにして置く訳にはいかない 十年前俺達はなにも知らなかった子供だった。 子供だからなんにでも全てにおいて笑っていられた。 でも、年を取る度に俺の中で一人で飛び立つ事が出来ないヒナの事が心配になって来た。 全てを一人でやれなんて言わないそれじゃなくてもお前は人よりも違う方向を向いている奴だからそうしろとは言わない なにか一つで良いから俺なしで出来る事を見つけて欲しい 俺が言ったからでもなく俺が一緒だから安心出来るんじゃなくてストレスを溜めない様に少しずつ前に進んで欲しい 「うぅ…嫌だよ…いやだ」 「・・・」 そう願っているが…俺も相当こいつには甘いらしくて怯える清明の姿を見ているとその気持ちも折れそうになって来る 俺がそう一人で考えているだけで清明からすれば望んでいない望みでしかない あの辞めて行った教師と俺は同じ事をしようとしているのかも知れない 巣立って欲しいからなんて言い訳にしてこいつがどんなに辛いかも考えないまま無理矢理巣立たせようとして自分の考えを正当化させ、逃げようとしているのだと思う どちらが本当に逃げているのか・正いのかそんな事分からないけど… ポケットから携帯を取り出すと俺は一人の人間に電話をかけた。 『はい』 「司です…お話があるのですが今、大丈夫ですか?」 『パリの件か?』 数回コールが鳴った後、画家としての清明を影からサポートしている金持ちの“禎塚 瑠煌”が電話に出るなり俺はそう言うと向こうは俺の話が初めから分かっていたのか話したかった事を先に話しだした。 「はい…パリ行き十七日午前の便のチケットを一枚手配して頂けませんか?」 「つ…つかさ…?」 『十七日か…では、巣立ち計画と奴の願いを同時に叶える方法を取った訳だな?』 「本当は一週間ずっと一人でやって欲しかったんですけどね…俺の方が無理そうです…いつも俺達の事で禎塚さんには迷惑をかけているのは分かっているのですが」 『お前が敬語を使うのは気持ち悪いから寄せ、それに初めの段階で野木は俺にお前が居ないと仕事しないと脅しをかけそれに同意している、言っちゃなんだが、今回もきっとこうなるだろうと予測して既にチケットの手配は済んでいる野木が出発した次の日の朝一で追いかけて行け』 本当にこいつはどこまでこんな俺達に良くしてくれるのか…清明が高校を卒業した日からの付き合いって事もあって本当に良く理解してくれている 普通自分の所有物である画家の付き人に“敬語を使うな”なんて言う方がおかしいのに…こいつだけは結果を出せば上下なんて関係なく対等に扱って来る 「ありがとう」 『礼よりも成果を上げろ!…でも、昔はお前達程、面倒な奴等は居ないと思っていたが…上には上が居たらしくてな…個展が終了したら礼の代わりに俺の愚痴を聞け!』 「あ?あぁ。分かった…ついでにその相手も連れて来たらどうだ?」 『あいつが素直に大人しく部屋で待って居ればな…会議がもうすぐ始まる、切るぞ』 「あぁ、いきなり電話して悪かったな」 その言葉を最後に俺は電話を切ると清明の顔を見て小さく笑って見せた。 清明の方は俺がいきなり瑠煌にあんな事を言った事が不思議で仕方が無いのかキョトンとした顔付きを見せ 俺が頭を撫でてやるとようやく理解したみたいでパッと表情に花を咲かせニコニコと笑い そろそろ式の時間が近付く中、俺はベンチから腰を上げると清明も一緒に立ちあがり式場の中へと歩いて行く 「一人で歩く事は怖い事かも知れない…でも、頑張って先に向こうに行けよ!辛くても淋しくても絶対に俺はお前の所に行くから」 「わ…分かった」 クソ長い式中はタバコが吸えないから最後の一本を俺は口に咥え、清明の頭を撫でてやりながらそう言うとなんとか納得したのかやっと安心した笑みを浮かべていた。 あぁ、六日分の仕事を誰に代わって貰うか 元は俺が引き受けた仕事だったが…こうなった今、その事で頭が痛い いっその事仕事を辞めて主夫にでもなろうか? アトリエで絵を描いているこいつの間横で俺はタバコを吸いながら見ている まるでガキの頃に戻ったみたいで楽しいかも知れない 「行こうか」 「うん」 完
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