15人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
私にとって人生が悪い方向へ変わるはずだったその日から、一日経ったけれど何もなかった。
普通に学校へ行き、普通に友達と喋り、普通に食事をして、普通にお風呂へ入る。
変わったことと言えば、席替えくらい。
席替えでたまたま私が好きなはずの人と隣の席になったが、特に気分は上がらなかった。
もうこの恋は冷めているのだろう。
その日私が出会っていれば、味わえなかった普通の生活がとても大事なことは理解している。
だから、土砂降りの中を一人で彷徨っているような、まるであの時のような気分になるのはおかしい。
おかしいけれど、この気分はしっくり来る。
しっくり来てしまうのだ。
この気分に名前をつけるとすれば、例えば寂しいとか空しいとか、そういう言葉になってしまうのを理解きていてもしっくり来てしまうのだ。
二日経ち、三日経ち、四日経ち、五日経ち。
何も変わらなかったと言えばそうだし、何もかも変わったとすればそれはそれで合っている。
その日出会った日々からすれば私の人生は多いに変わったし、その日までの日常の延長戦を辿っているのだから、変わらなかったと言ってもいい。
何万回も繰り返し、ようやくあの未来を消して私の人生を書き換えたのだから。
だから、これは正解なのだ。
変わったとしても変わらなかったとしても、もともとこの未来が正解だったのだ。
だから、だから。
出会うはずだった人物を思い浮かべ、枕に顔を沈めて溜め息をつきたくなる私は、不正解なのだ。
不正解だとわかっても、あいつと出会い過ごした時間が楽しかったと感じてしまうのは、きっと不正解な私より不正解な感情だ。
そう思わないといけない。
そう思い込まないといけない。
私に残された時間はそう多くはないのだから、そう考えて過ごさないと楽しめないだろうから。
「ねぇ、」
死んだの?
そう、あの時の台詞を繰り返してしまいそうになる。
あいつが死ぬわけないのに。
私はともかく、あいつは私と出会わなかったらもっと長生きするはずなのだ。
私よりも、ずっと。
だから私が迷ってはいけない。
私はそうすると決めたんだ。
あいつと出会わず、あいつを長生きさせるって。
それが私の死を示していたとしても。
それが、その日からあいつが死ぬまでを数え切れないほど繰り返した私の決めた結末なのだから。
ようやく、諦めがついたのだから。
最初のコメントを投稿しよう!