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雨はまるで、私とあいつをぺしゃんこにしたいがために大雨にしているとでも言うように、私とあいつに叩きつけている。
いや、正確には叩きつけてはいない。
叩きつける寸前でピタリと止まっていた。
「ねぇ、死んだの?」
私はあいつに尋ねた。
たくさんの血を流してあいつが倒れているのだから、私がそう尋ねるのも自然だろう。
答えが返ってこないとすれば、それはあいつがもう死んでいる時だけだ。
「お前もな」
あいつがそう言ったのも、また自然なのだろう。
私もまだかろうじて立ってはいたが、今にも倒れそうなほど深い傷を負っていたのだから。
止まっている雨とは違い、血は流れる。
もうすぐ完全に止まる私とあいつの時間だけが流れているのは、何と言う皮肉なのだろう。
「未練はないの?」
「特にないな」
「ワイン飲みたいんじゃないんだっけ?」
「お前はチーズケーキ食べたいんだろ」
ははは、と私とあいつは乾いた笑い声をあげる。
私もあいつも覚悟はしていたけれど、やっぱり死ぬのは寂しい。
「死にたくない、って思ったりしない?」
私は、またあいつに訊く。
いつも質問するのは私の方だった、と思いながら。
あいつはやはり、こう答える。
「ねぇな」
私は、少し、ほんの少しだけあるかもしれない。
とは言わない。
このまま静かに死にたいから。
私も、そろそろ限界が来たと思いながら座るのも大変な足を動かして、水溜まりの地面に座る。
服が濡れても、雨と血のせいでわからなかった。
「そっか」
「でも、強いて言えば」
あいつはそこまで言ったところで咳き込む。
もう、駄目らしい。
最期くらい、きちんとお別れしようと思って空を見ていた視線をぼろぼろのあいつへ移す。
「──お前と、もっといたかったかもな」
ああ、もう、ひどすぎる。
そんなことを言われたら死にたくなくなってしまう。
死なせたくなくなってしまうじゃないか。
ようやく諦めがついた気がしていたのに、私にはまだまだ未練がたっぷりあるようだった。
……私だって、もっと一緒にいたかった。
あいつの呼吸が完全に止まったのを確認してから、止まっていた時間を動かす。
あとは、何度も何十度もやっているからお手の物。
私の残った力を使って時間をその日の朝まで巻き戻す。
あいつを死なせないために。
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