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10
そんな私は、ある日の午後、一人黙々とお茶部屋でイチゴ大福なんぞを作り始めました。
「なに作ってるの?」
同級生の一人がのぞき込んできます。
「イチゴ大福」
「どうしちゃったの?」
「テレビで作ってるの見て、けっこう簡単だってことがわかったからさ」
数日前、あなたがスーパーの広告を見ていたときのこと。イチゴ大福の安売りが載っているのを見て、「これうまそう」と言っていたのをしっかり覚えていてのことでした。当然です、そうでもなければ、何故季節外れの高いイチゴを買ってきて、わざわざ作り慣れない和菓子など手作りする必要があるのでしょう。私はイチゴも餡子も、それほど好きではないのです。ただ、「ちょうどイチゴ大福食いたかったんだよね」などと言いながら、イチゴ大福を食べるあなたの姿を見たいだけなのです。
しかし、必死に作ったイチゴ大福は、関係ない人たちが次から次へと現れては、食べていきました。もともと下心があってしたことなので、後ろめたさもあるのか、私もなんとなく「ダメっ!」と言い切れません。「大輔君の分がなくなっちゃう!」なんてさらに言えません。偶然を装い、なんとか一つだけ死守したのですが、あなたは用事があるのかなかなか現れません。
やっと現れたのは、夜の八時近くになってからでした。
「大輔君、イチゴ大福があるんだけど……」
あなたは嬉しそうというよりも、ちょっと困惑気な表情を浮かべました。
「お茶部屋の冷蔵庫に入ってるから。よかったら食べてね」
「そう。ありがとう」
素っ気無い返事でした。
「食べるとき、お茶淹れるから言ってね」
するとあなたはこう言いました。
「茶ぐらい自分で淹れるからいいよ」
それを聞いた途端、いちご大福を作っていたときの晴れやかな気持ちは、あっという間にどす黒い雲に変わって私の目から雨を降らせようとしています。
「あーあ、いじめっ子だな。大ちゃんなんかに残さないで俺が食えばよかった」
近くに座っていた、島田君が言いました。
「今、飯食ってきたばかりだから、どうせなら後でゆっくり食べたいんだよ」
どす黒い雲からは、雷までもが落ちてきます。あなたは今まで、一体誰といたというのでしょうか。
「島田君、大輔君いらないみたいだから、半分こしよう」
思わずこんな言葉が口からこぼれます。
「いいねえ」
「ちょっと待てよ。最後の一個は、僕の分なんだろう」
「だっていらないんでしょう」
そう言うなり、私たちはお茶部屋へと向かうために立ち上がりました。
「だめだめ、俺の俺の」
そういうあなた尻目に、私と島田君は、ダッシュでお茶部屋へ向かいます。あなたも全速力でそれに続きます。
あなたは一番ビリでしたが、結局、イチゴ大福はあなたが食べることになりました。島田君はよほど大福が好きなのか、コンビニで大福買って帰るなどと言いながら部屋を出て行きました。そして、私とあなただけが残されました。
「大輔君、どこ行ってたの?」
「ああ、ちょっとね。サークルの後輩と飯食いに」
ここは、男か女か確かめるべきなのでしょうか。しかし、もし「女」と言われたら、卒倒してしまいそうです。しかし、すっきりしないまま家に帰って私は上手く眠れるのでしょうか。最近不眠気味で、できればぐっすり眠りたいのです。
「相手は、男性ですか? それとも、もしや女性ですか?」
とおどけて聞いてみます。
あなたは鼻で笑いながら言います。
「男性も女性も何人もいたな」
「つまんないの」
「悪かったね」
私はほっと一息つきました。しかし、あなたの次に言った言葉に再び打ちのめされました。
「サークル内とかさ、同じ集団内でつき合うとか、色々面倒だし」
なんということでしょう。遠まわしに私に言っているとしか思えません……。
あの日から、あなたと話すときに必要以上に気を使ってしまうのは何故でしょう。気のせいか、あなたの態度もよそよそしいように思えてくるのです。肉じゃがやイチゴ大福作戦をを立て続けに行ったことで、警戒されているのでしょうか。それとも、もっと遡って、ファミリーレストランであれこれ聞き出したのがいけなかったのでしょうか。あの人は自分のことを好きなようだが、自分はあの人のことは好きではないので、もうこれ以上気を許さないようにしよう。さっさと諦めてもらおう、とでも思っているのでしょうか。こんな推測ばかりせずに、はっきり訊いてしまうのが一番なのでしょうか?
しかし、もとはといえばあなたが私の足をじっとみたりしたからいけないのです。あんなことがなければ。私はあなたが私に興味を持っているかもしれない、なんて思ったりはしなかった。そういえば、最近はどうでしょう。九月に入ってから、日が沈むと急に冷え込むようになってきたので、ズボンばかり穿いています。しかし、他の女性陣は頑張ってスカートも穿いている、あなたは、もしかして今では他の女性陣の足を盗み見ているのでしょうか。だとしたら、許せません。
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