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植物園は間もなく閉館しようとしていたので、外に出ます。何を食べようか話し合います。
「確か、来る途中にファミリーレストランがあったよね? そこ、どう? ドリンクバーへ行きたいな」
私が言うと、
「ドリンクバー? なぜに?」
とあなたは首をかしげます。
「私、ドリンクバーが好きなの。でも、一人で何時間も座ってるのは気がひけるから、一人じゃなかなか行けないじゃない? 大輔君はどこか行きたいところある?」
「そこでいいよ」
私たちは、近くのファミリーレストランへ入りました。
注文した料理を食べ終えてしまうと、後はよりどりみどりのドリンクを飲みまくるだけです。
「本当に楽しそうだね」
色んなドリンクを次から次へと持ってくる私を、あなたは関心したように見ていました。
「だって、いくら飲んでも同じ値段なんだもん」
さっきから、十分に一度はお代わりをしているような気がします。うれしいのはドリンクバーに来れたからだけではありません。言うまでもなく、向かいの席に誰が座っているかが最も重要なのです。
こんな日が来るとは思わなかった、などと歌い出したくなってしまいます。(でもあの歌は失恋の歌だったか。今思い出すのはよしておきましょう)。
それから私たちは、好きな音楽や本などについて話し合いました。普段は自分の趣味について、ほとんど口に出すことはないあなたでしたが、思ったよりも好みがはっきりしていて、風変わりなものに興味を持っているようでした。そういう人は、しばしば「このCDいいからききなよ」とか、「この本絶対面白いから読んでみなよ」と他人に薦めることを好みます。しかし、あなたがそういった類の自己主張をしているのを見たことはなく、ますます好感度は上がります。
しかし、夢中になって話しているときに、ふと気になりました。あなたは本当は、もっとかわいい女の子と話していたいのではないか、と。そのことを聞いてみたくなりますが、なんだかそれは無言で「そんなことないよ」と言わせるよう圧力をかけているようにも思えなくもありません。そんな考えが、浮かんだり消えたりしながら、なんだか楽しいはずだったのが、混乱した気持ちになってくるのでした。あなたはそんな私に特に気づく様子もなく、抹茶オレうまい、などと呑気なことを言うのでした。
「最近聴いてよかった曲は、宇多田ヒカルの『Distance』かな」
私が言うと、あなたは、
「ふうん。あれ、切ない曲だよね」
と言います。あなたの口から「切ない」という言葉が飛び出したのは、私があなたと会ってから初めてのことでした。いつも朗らかで、感情の乱れを表に出すことはないあなた。そんなあなたは、一体どのようなときに切ないと感じるのでしょう。あなたを切ない気持ちにさせることができる宇多田ヒカルに、私は少し嫉妬しました。
話題は次第に、どんな高校時代、中学時代を送ってきたのか、というようなことになっていきました。私が、中学時代の友人、例の相棒の話を始めると、あなたが興味をもってくれたようだったので、しばらくその話を続けることにしました。
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