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 私がどこかずれているのか、それともみんなが仕組んでいるのか、翌週、またもや似たようなことが起こりました。  その日はとりわけ残暑が厳しく、暑くて勉強が捗らないので、みんなでビールでも飲もうということになっていました。少なくとも、五時半まではそういう話でした。  家に帰り、洗濯を済ませた私は、せっせと肉じゃがを作りました。三分の二は自分用にタッパーにつめ冷蔵庫へ入れて、残りは今日の飲み会用に、別のタッパーに詰めました。シャワーを浴び、化粧をして、家を出たのは八時半頃。途中でスーパーに寄って、杏露酒を買いました。  あなたのアパートを訪れるのは初めてでした。なぜあなたのアパートが会場なのかというと、お茶部屋は先約があり使えなかったのと、ほんの数時間で部屋を飲み会会場に整えられるくらい、整理整頓されている部屋はそこしかなかったということでした。  教えられた道順をたどり、郵便受けで改めて部屋番号を確認します。ドアの前に立ち、ああ、ここがあなたの部屋なのかと思いながら時計を見ると、八時五十七分でした。予定時刻の三分前。もう大丈夫でしょう。  一呼吸してからブザーを鳴らします。しばし待った後に、スエットに着替えたあなたが現れたのです。みんなが来るとわかっていてこんな部屋着になるのか? あなたはそんな人だったのか? と一瞬違和感を覚えましたが、あなたの怪訝そうな表情を見て、もしやと思います。 「今日中止になったんだよ。きいてない?」  案の定あなたの口から出たのは思った通りのことでした。  また誰も連絡してくれなかったのでしょうか。なんていい加減な人たちなのでしょう。そのうちゼミに出席しそびれて、単位を落としたりする事態が発生するかもしれません。かといって下っ端の四年生の言うことなんて、ましてか弱い私の意見なんて誰も聞き入れてくれない可能性が高いもの……。それにしても、あまりにもひどすぎます。 「横川さんからメールきてなかった? 白井さんも送信先に入ってたと思うんだけど」  慌てて携帯電話を確認してみると、なんと、電池切れになっているではありませんか。  もう一人誰かいれば「三人で吞もう」となったかもしれませんが、二人というのはあまりに非現実的すぎます。しかも、お店でならまだしも、個人の住居というのはちょっと飛躍しすぎです。せっかくまたお話できると思ったのに、などと後ろ髪引かれながら、「これ、作っちゃったからよかったら食べて」と言いつつ肉じゃがのタッパーを渡します。 「暗いから、気をつけてね」  あなたはお礼は言ったものの、引き止めようとする様子は一切ありませんでした。 「まあ、普段も深夜に帰ったりしてるし」  私が言うと、それ以上何も言わず、私が振り返ると同時にドアを閉める音が聞こえました。  そうして私は、一人とぼとぼと夜の道を歩いたのでした。私の家はあなたの家から、歩くと三十分くらいありました。バスに乗ればもう少し早いかもしれませんが、どのような路線を乗り換えてたどり着けばいいのか、特に知らないし、夜だから本数もあまりないことでしょう。  肉じゃがを置いてきて迷惑ではなかっただろうか、と改めて気になります。あなたがしばしば、学食で肉じゃがを食べているのを見ていたので選んだメニューだったのですが、別に私は料理がそれほど得意というわけでもないのです。  それにしても、引き留めてくれてもよかったのではないか、という気もします。それはそれで、なにか下心があるかのように思われるのが嫌なのかもしれないし、私を異性だと意識しているから、気軽に「上がってよ」とは言えなかったにせよ、私がもう少し見てくれがよかったら、違う扱いをされたりもしたのでしょうか。三十分という時間は、それらのまとまりのない思考に結論を出すには足りませんでした。私はそれからさらに一時間、やみくもに夜の街を歩き続けたのでした。  翌日、あなたはきれいに洗ったタッパーを返して「おいしかった、ありがとう」と言ってくれましたが、それが本心なのか、本当はたいしておいしくもなかったのに礼儀としていったものなのかと、新たな疑いが芽生え、素直に喜べないのでした。実際に食べているところを見たわけではないのだから、なんとも言えないのです。想像するというのは、なんとも頼りないことだなと思うのでした。 2630c31d-827f-4e21-b0b5-44185d56c499
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