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第1話 格闘天使ちゃんの憂鬱
「ゆ・ず・たーん。ノート見してー」
語尾にハートが付きそうな甘ったるい──というかめちゃくちゃ甘えた声で話し掛けると、話し掛けられた方は「は?また?」とでも言わんばかりに席に座ったまま無言で眉間に皺を寄せる。
「ノートだよノートぉ。古文のぉ。今日提出日じゃん? ゆずたんの綺麗なノート写さしてー」
あんまりに呆れた風に固まられたもんだから、手を合わせて媚びた態度でしっかりと念を押した。
昼休みの教室──今にもお友達たちと一緒にお弁当を広げようとしていた同じクラスの茅野柚葉は、呆れた様子でため息を吐く。
「そのゆずたんってのやめてよ。──てか矢井戸……あんたってばまた提出日の度にアテにする……」
と、口を尖らせぶつくさしながらも、古文のノートを取り出す素振りを見せてくれる柚葉。
机の中を探る時にしゃらりと揺れる、ほんのり茶色くて綺麗なロングストレート。
アイドル級にパッチリとした目と長い睫毛、白い肌。
そして、何やかんや言いながらいつもノートを貸してくれる優しさに、思わずデレッとしてしまう。
古文に関して言えば俺は柚葉にノートを借りるために生きていると言っても過言ではないし、俺にとって古文は柚葉からノートを借りるためだけに存在している。
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