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「……まぁそんな事だろうとは思いましたけど」
スレンダーな体型に色味の落ち着いたスーツ、サラッと揺れる髪、眼鏡の奥に優しく笑う目。
……あ、これって、こういう優男系が好きな女の子の好きそうなヤツだって、男の俺でも思う。
「矢井戸君、いつも茅野さんのノートの完全模写ですもんね」
「あ、バレてます?」
「バレてますよ。──ちょっと、いいですか?」
そう言って柚葉のノートに手を差し伸ばされたので、反射的に手渡す。
受け取ったノートをパラパラと捲り始めたセンセーは、あるページで止まって「ほら」と俺に見せてくる。
「茅野さんは、要点や解りづらい所もきちんと自分なりに自分の言葉で記録してるんですよ。茅野さんの努力まで丸写ししたら、もはや矢井戸君のノートじゃなくなっちゃうじゃないですか」
見ると、相変わらずの柚葉のキレイな字で、板書以外にもご丁寧に解説文や間違え易い点などがカラフルな色ペンで書かれていた。
「ほうほう。さすがですなぁ」
俺もノートを覗き込み、顎に手を当てて他人事みたいに感心したりする。
「ノートを制する者は受験を制しますからね。茅野さん、ここへ来て古文のテストも調子いいですから」
俺を軽くたしなめた後、満足げに頷きながらノートを閉じる先生。
そしてソレを俺──にではなく、柚葉に「はい」と返す。
「あ、ナチュラルに奪い返された」
棒読みで訴える俺など気にも留めず、柚葉は柚葉で、「えっ」と戸惑いながらも意中の人に褒められた上にノートを取り返してもらうというヒーロー行為(そういう所ですよ、センセー)をさらっとやってのけられて、それはもう心底嬉しそうで──。
「はい……! ありがとう、ございます……!」
目をキラキラさせてまで声を張る。
……だからお前誰だっつーの。
どこから出してんだよ、そのキラキラボイス。
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