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「いいじゃん音楽。ねぇ?」
香苗ちゃんに同意を求めると、ウンウンと頷き返してくれた。
「ギターかっこいいし、楽しそうだよね軽音部。てゆーかむしろ、ケータくんが空手やってた事の方が意外ー」
香苗ちゃんを筆頭に、女の子たちは俺の事を下の名前の“ケータくん”とか“ケイちゃん”とかって呼ぶ。
近しい女子で俺の事を名字で呼ぶのなんか、逆に柚葉ぐらいだ。
「ギャップ萌え?」
「萌える萌えるー。意外と強いんだーって感じ。いざって時に守ってくれそう。ポイント高いよソレ」
「マジで? じゃあもっと女の子たちに広めといてよ。『矢井戸桂太は元空手少年!』てさ。つか、香苗ちゃんも軽音入る?」
「えー、でも男の子ばっかでしょ?」
「男の子ばっかだよー。まさに男の園。今入れば逆ハーだよ逆ハー」
「逆ハーとかウケるー」
……なんて会話を香苗ちゃんと繰り広げている中でふと柚葉に目を向けると、呆れ顔なのは火を見るより明らかで──。
「ホストのキャッチみたいな事あたしの友達にするの禁止! はい! 用が済んだらさっさと去ね! これからお弁当食べるんだから!」
香苗ちゃんとは対照的な柚葉の態度。
悪い虫を追い払うようにシッシッとあっちいけをされても、俺は勝ち気に笑ってやるだけ。
「相変わらず冷たー。ま、俺はいたぶられて燃えるタイプだからめげないけど」
「だ・か・ら! そういうのいーから!」
あたしはそんな単純な誘い文句になびかないからと言わんばかりに、ムキになって机をバンッと叩く柚葉。
そんな彼女をかわいいと思いながら、俺は言われた通りに退散する事にした。
自分の席からバッグを取り、もう片方の手で柚葉から借りたばかりのノートを持った状態で教室から出ようとすると──。
「──あれ? ケータくん、お昼教室で食べないの?」
教室のドアの前で、香苗ちゃんに呼び止められた。
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