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「えー、やだー。ゆずたんのノートがいいー」
俺は咄嗟にノートを腹に抱きしめ、小学生バリに駄々をこねた。
「だってゆずたんの字ィキレイだしー。超見やすいしー。弁当こぼさないからー。許してよお母さーん」
「いつからあたしがあんたのお母さんになったのよ! つか、あんた昔からお弁当とかがっつき過ぎてこぼしまくってたじゃない! せめてノート写すのとお弁当食べるのの同時進行はやめなさい! 器用じゃないんだから!」
「ほら、またお母さんみたいなこと言う~! 俺大丈夫だもん、器用になったんだもん! ギターもすぐにマスターしたし、お弁当だって自分で作ってるし、ボタン付けだって出来るもん! 少なくともゆずたんよりは女子力高いもんね!」
「なっ…──。ムカつく! 何よ矢井戸のくせに! あたしだってボタン付けくらいっ……! ──い、い、いーからノート返してよぉ!」
初めは強気に出ていた柚葉だが、俺の袖を掴みながらいやいやと縋りつくという及び腰な姿勢を見せ始めた。
『女子力』発言が効いたんだろう──柚葉は空手一辺倒な分、料理などの女子らしい行いは一切苦手だろうからな。
(やべぇ、こいつマジでかわええな……)
と、自分の頬の筋肉がデレッと弛むのを感じながら、柄にもなく弱腰な柚葉を見下ろしていると──。
「──あれ、何してるんですか? まさかケンカ……じゃないですよね」
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