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いつの間にか教室の前に立っていた“その人”の声に、俺と柚葉は水をぶっかけられたかのようにハッと静まりかえった。
──特に、柚葉の反応があからさまで──。
「……っ、野波、先生……!」
そう小さく呟いては掴んでいた俺の袖をパッと放し、姿勢を正した上に顔を赤らめてかしこまったりして──……。
「──………」
そんな柚葉に、俺は目を細めてしまう。
その人と接する時の、別人のような態度。
その人にだけ向ける、どうしようもなく繊細で壊れそうな眼差し。
そして、ノートを汚されたくない一番の理由──。
……そうだよな。
“好きな人”に米粒で汚れたノートなんか提出したくないもんな。
空手時代からの度重なる俺の求愛行動も、恋愛事には無関心で無頓着だった柚葉には一切取り合ってもらえず──……。
高校で奇跡の再会を果たし、1年の時は別々のクラスで満足なアプローチは出来なかったものの、ようやく2年で同じクラスになれてこれからだって時に。
それなのに。
それなのにだよ。
二年の春にこの先生が赴任してきた途端に、こんなことって──。
(……マジ最悪だわ)
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