畔にて

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「……近いんだな」    初めて見る斬首刑――。いや、斬首刑どころではない。戦乱の最中(さなか)離宮で暮らしていた王子は人が死ぬところをまだ見たことがない。  両手両足を繋がれ目の部分がくり貫かれた布袋を被った隣国の王子が断頭台に上がる。王子は側仕えに分からないよう、ぎゅっと目を瞑った。 「目を背けてはなりません。あなたは世を知る必要があるのですから」 (でも……でも……怖いんだ!)  大勢の人々が見えたが、広場は波を打ったような静けさだ。  木の階段を上がる数人の足音、重いものを動かすような音、処刑台の上の音だけが響く中、自分の鼓動の音が一番大きい。そして目を瞑っていても、ここにいる全員が息を飲む気配を感じた。  ヒュッと風を切る音に続いてゴトッと重い音がした瞬間、民衆の歓声が沸いた。  ――今、だったのか……。  王子が恐る恐る目を開けると、布袋が高く掲げられていた。おびただしい血の量にめまいがする。  大きな樽を抱えた男たちが上がってきたかと思えば、樽を横倒しにして二人がかりで体のほうを入れ始めた。  敵とはいえ一国の王子。同じ立場なのにこのような最期を迎えなければならなかった隣国の王子が不憫でならない。王子が行き場の無い感情を握りしめると、拳がわなわなと震えた。  樽に詰められる隣国の王子の体――、力を失くしほどけた拳から何かこぼれ落ちた。  小瓶だ――。  落ちて割れて、星のような砂糖菓子が断頭台に散らばった。  ――あれは。
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