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一通り儀式はこなした。ようやく自室へ戻れた深夜、王子は側仕えの胸倉を掴んでいた。
「お前、知っていながらなぜ会わせた?!」
「私はあなた方の国の争いにより滅んだ遊牧民族、族長の息子です。先代の王に目をかけられ、あなたの側付きに召し抱えられました。体の良い人質です。遊牧民族は個々に独立していますが結束は固い。戦闘力が高く方々に散っていますからね。跡継ぎをかくまってるとあらば味方につけることができる」
「そんな……」
「王子に身をもってすべてを知って欲しかったのです」
あなた方の交わす手紙は妬ましく美しかった――。側仕えは遠い目をした。
自分の国を滅ぼした国の王子たちだが、手紙を通してありのままの二人はとても善良だった――と。
王子は膝から崩れ落ち、情けなくへたり込んだ。長年仕えていた彼も跡継ぎ……王子だったとは――。
「貴方が湖に流していた手紙は私が拾って窓に投げ入れていました。もちろん、内容はあらためさせてもらいましたが。まさか、湖に流した物が相手に届くなど本当に信じていた訳じゃないでしょう? あなたの推察どおりです。あの手紙はあの塔から飛んできていました。その後は私が塔の下で拾ってきたものの中で渡せるものだけを選んであなたに拾わせていたのです」
「知った! 分かった! 俺はもう――何も信じない!」
いつだって王子として在るべく毅然とふるまうよう、教えられてきた。だが、現実はどうだ。隣国の王子は首を落とされ樽に詰められ、族長の息子は下僕をしているではないか。王子として在るべく? そんな教え信じない。どうふるまうかは自分で決めるのだ。
今は泣きたい。叫びたい。
王子は伏してうずくまった。
「お辛いでしょう。やり直せるとしたらどこからやり直したいですか? 手紙を拾わなければ? 返事を書かなければ良かったですか?」
「いや。生まれるずっとまえ……争いの火種が燻るとこからだ」
「それなら一緒に行きませんか? あなたに国を捨てる覚悟があるなら――。先ほど処刑されたのはあれこそ影武者。本物の隣国の王子はあの湖の畔で待っています」
「騙したのか」
「はい」
畔にて――
三人の王子による新たな国の成り立ちの物語が始まる――
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