畔にて

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 夢の余韻を打ち消すように、誰かが扉を小さくノックする。まだ暗いうちに王子の部屋を訪ねてくるものなどそうはいない。ドアの前までくると来訪者は図ったように名乗りを上げた。 「私です」  ――側仕えの声だ。 「どうした。こんな早くに」 「どうしてもお目にかけたい人が」 「今か? 今日は大切な儀式の日だぞ?」 「十分承知しています。ですが()しかないのです。後ほどお話ししますので――今は何も質問なさらないで下さい」  ()しかないとなると、出向かないわけにもいかない。簡単に身なりを整え、急ぎ足の側仕えの後を歩く。 「どこへいくのだ?」 「地下へ。――黙って付いてきて下さい」  ――そうだ。何も聞いてはいけなかった。  それにしてもそっけない。誰だろう、会わせたいという人は――。  幼いころ、離宮で育った王子は王都へ戻ってまだ二年足らず。確かに会っておかなければならない要人もいるだろう。  何しろ、今日は王子の成人の儀なのだから。
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