畔にて

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「手紙?」  封を開けると湖の畔で拾った手紙と同じ筆跡――。  いつも何かを切り取ったような紙片に小さな文字がひしめくように詰まっていた。それでも分かるほど美しい筆跡は見間違いようもない。彼の手紙だ。  王子の胸がドキリと鳴った。一瞬、呼吸を忘れるほど。  便せんがカサカサと揺れ、文字が追えない。震える手を鎮めるため王子は深呼吸をしてから読み始めた。 『最後の手紙になります。  私はもうじき遠き彼方に旅立ちます。  ようやく父や母、兄弟のもとへ行けるのです。  君の手紙はどんなに励みになったことか。  ひと言お礼がいいたくて筆をとりました。  どんなに時間がかかってもいい。  これがいつか君のもとへ届くことを祈って――』 「……これは……」 「そうです。覚えておいでですか」 「忘れたことなどあるものか」 「手紙の主に会いたいですか?」 「もちろん! ここに? 今、会えるのか?」  側仕えは頷きながらも、立ちはだかるように扉を塞いだ。 「ひとつ、約束を。絶対にお立場を明かさぬよう」 「わかっている。いつだってそうだったじゃないか」  王子は今朝がたの夢の続きを見ているような心地になった。
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