Episode 4 ある冬の朝

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 店を出た後、オレは優にメールを入れてみた。すると直ぐにチャットに切り替わった。 「身体の具合はどう?慎太郎」  文字からでも優の優しさが伝わってくる。 「昨日の今日じゃないか、優。オレの事、心配し過ぎ」 「慎太郎は、意外にアクティブだからね」 「そう思うんだったら、今晩、うちで一緒にご飯食べてよ」 画面が変わるまで、吹き出しの中の文字がしばらくローディング状態になっている。優が割と長い文章を打っているのだろう。それとも言葉を慎重に選んでいるのか。 「慎太郎の家でいいの?うちでも構わないよ。ケータリングを頼む?」  オレもしばらく考える。 「スーパーでデリカテッセン、選んで持って行くよ。7時でいい?」 「ああ、いいよ。オレの部屋、505だから」 「505?なんだかデニムみたい」 「そういうと思った。じゃ、待ってるよ」  お互いの胸の内をうまく伝えられない不器用なオレ達はチャットになるとついつい長くなってしまう。  オレは電源を切ると会社のエントランスに急いで向かった。残りの仕事、死ぬ気でやらないと残業出来ないことが、たった今、決定したから。
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