Episode 4 ある冬の朝

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「優って海老フライ好きなんだ?」 「うん。中部国際空港(セントレア)に美味しい食堂があるよ。本店は昔からあって、セントレアは支店。父方の爺ちゃんに聞いたんだよ。名物女将さんがいたんだって」  銘店には名物オーナーが必ずいる。武岡さんと笹本課長のあの店も、おやっさんがいるし。 「あ、ヤベーこれは美味しいわ」  優の言い方、ちょっと変。ヤベーなんて言いながら、ウマイと言わず美味しいって。  テーブルを前にして二人で並んで座ってる。テーブルを挟んで座らなかったのは、敢えてオレたちが距離を近づけてたくて頑張ってる証拠でしょ、これ(笑) 「ビール飲む?買っといた。ハイボールが良かった?」  優が冷蔵庫から6缶パックを出してくる。オレは優がプルタブにかけようとした手を止めた。 「あのさ、飲む前にちゃんと言わなきゃ」 「うん、オレもだ」  二人して畏まる。視線を何処にもって行けばいいのか分からず、何故かお互いに正座した。第三者がいたら絶対に笑われるだろうな。 「「オレ、ちゃんと付き合いたい。好きだから」」 「優のこと」 「慎太郎のこと」  名前以外は同じことを言ってハモるだなんて、こんな奇跡あったのかな。
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