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第一章 包帯
「寒いな…」
浅野慎太郎はとある企業に勤める新入社員だ。あまり社交的な性格ではないのと、口数が少ないため、誤解を受けやすい。そのため、直属の上司である、課長の笹本智之に少々、眼をつけられていたりする。
オフィス街は朝からビル風がとても強い。出勤途中でコートの衿を少し立てると、小柄な慎太郎は顔も半分以上が隠れてしまう。さらに人波に紛れ込んでしまうとこれがなかなか厄介だった。
「あ…ネコだ」
人波を避けるように裏道に入ると、珍しく真っ黒な野良猫が飛び出してきた。
「あ、そっちは危ないっ!」
慎太郎は叫びながらも、既に身体は動いていた。彼の瞬発力は凡人を凌駕する。道路に飛び出した野良猫は、車の急ブレーキの音におののき、その場に立ちすくんだ。それを、掬い上げるように慎太郎が両手を伸ばして上半身から飛び込んでいく。
「ばっバカヤロウ!!死にてぇのかっ!!」
急ブレーキの車の主はそう言い残すと憮然として走り去った。その場で慎太郎を残し、野良猫は何事もなかったかのようにさっさと彼の手から飛び出していった。
「……痛っ」
放り出した鞄を拾い、改めて自分のコートに着いた汚れを手で払う。だが、ちょっとやそっとでは落ちそうにない。既に両手はひどく擦り剥き、血まで滲んでいる有様だ。
「…………」
猫はとりあえず難を逃れたわけだし、まぁ、良しとする。慎太郎は気分を切り替え、今度はズタボロな自分をなんとかしなければならなかった。そんな彼に、ゆっくりと後ろから近づいて声を掛けた背の高い男がいた。
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