《起》春に咲く花。

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「明日──」 「え?」 「明日、この近辺を見て廻ろうと思うんだが、よかったら、案内してくれないか?」 「オレが!?」 「他に誰がいる。それとも何か予定でも?」 「いや、無い…けど…」 「俺と一緒じゃ気が乗らないか?」 「別に…そういう訳では…」 こちらを窺う東吾の視線。 本当は、明日も奈央を訪ねようと思っていた。 だけどオレの口からは、自然とこんな言葉が零れていた。 「いいよ、行こう。」 「良いのか? 無理しなくていいんだぞ?」 「無理はしてない。東吾から誘われるとは思わなかったから、ちょっとビックリしただけ。どこか行きたいところはある?」  そう訊ねると、東吾は優しく目を細めて答えた。 「湖に行ってみたい。」 「湖って…岩洞湖?」 「あぁ。景色の良い所でのんびりするのも、たまにはいいだろう?」 「…さぁ、良く解らないけど…東吾がそう言うなら。」  素直に頷くことも出来ないオレに、東吾は穏やかに微笑んで、大人の余裕を見せ付けてくる。一枚上手を取られているようで気に入らないが… そうだな、良いかも知れない。土師東吾が北天である以上、オレは、もっと彼を知る必要がある。 ───こうして。 男二人の奇妙なドライブが、にわかに計画されたのだった。
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