《起》春に咲く花。

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《起》春に咲く花。

[1] ロベリア ─悪意─ 春の庭仕事は、一年で最も手が掛かる。 長く雪に閉ざされていた地表は硬く絞まっていて、掘り起こすだけでも重労働だ。 晩秋に枯れた草花の残骸が、厚い雪に()されて、ピタリと地表に張り付いている。()ずはそれ等を丁寧に取り去り、土を掘って、土中に蔓延(はびこ)る細かい根を除かねばならない。 カサカサに乾いた土に、定まった比率で肥料と消石灰を加え、酸性に傾かない様に土に栄養を含ませる。 土本来の弾力を取り戻したら、そこへ花苗を植えるのである。 地道で、根気の要る作業だ。 オレ──神崎瑠威は、朝早くからたった一人で、黙々とそれを消化(こな)していた。 0e037c26-0131-42d5-a95e-0f57854ab21c
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