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浪漫恋愛〜ロマンチックらぶ~四話目
「雛ちゃんごめんね。元気で。」
………櫻子姉様?
櫻子姉様こそ元気にしてるの?
ねえ、私ねっ、櫻子姉様に聞いて欲しいことがい──っぱいあるの!
そうだっ。櫻子姉様みたいな色気ってどうやったら出るの?
「ごめんね、雛ちゃん……」
ちょっ、待ってよ櫻子姉様っ……
……なんで一人なの?晴彦さんは?
どこ行くの?
そっちは真っ暗だよ?
「……おいっヒヨコ。こんなとこで寝てたら風邪を引く。」
待って櫻子姉様……
行かないで────────!!
「ヒヨコ!!」
目が覚めたら貴光さんの顔が目の前にあった。
無意識の内に伸ばした手が虚しく宙を切る……
そっか私、暖炉の火が暖かくて寝ちゃったんだ。
随分現実的で嫌な夢だったな……
理由はわかってる。
晴彦さんから借りた小説をようやく読み終えたのだけれど、主人公の二人が悲劇的な最後を遂げたからだ。
「小説を読んでいたのか?」
貴光さんに聞かれ、思わず本を後ろに隠してしまった。
恋愛小説なんか読んでるのを知られたらなんて思われるだろう……
恋愛結婚したいだなんてまだ思ってるのかと鼻で笑われるかも知れない。
「母はどうした?家に居ないようだが……」
「ルーシーさんはお義父様が迎えに来られたので、お食事をしに行かれました。」
「そうか…いつも父は急に来るからな。では今日は帰っては来ないな。」
ルーシーさん、すっごく嬉しそうに用意して出かけて行った。
きっとお義父様のことが今でも大好きなんだ。
ルーシーさんは16歳の時に祖国でお義父様と出会ったのだと言っていた。
お互い一目惚れですぐに恋に落ちたそうだ。
一ヶ月の海外出張を終え、日本に帰ることになったお義父様と離れたくなくて、家族が止めるのを振り切って単身で日本についてきたらしい。
日本に来て初めてお義父様が結婚していて奥様がいることを知ったのだ……
その時にはすでにお腹に貴光さんがいて……
彼のおかげで何不自由のない生活が出来ているし、たっぷり愛してくれるから私は幸せよとルーシーさんは言う。
けど……ここに来て二ヶ月─────
お義父様が会いに来たのは今日が初めてだ。
柴田さんが言うにはお義父様にはルーシーさんのような愛人が何人もいて、貴光さんのような子供も沢山いるらしい……
それでも嬉しそうに出かけて行くルーシーさんは恋する乙女の顔をしていた。
今ならなぜ貴光さんが恋愛結婚を馬鹿にしたのかがわかる気がする……
幼い頃の貴光さんに、自分の父と母との関係はどう見えていたのだろうか。
きっと貴光さんは苦労しただろう。
妾の子供だと言うだけでも差別されただろうに、異国の血まで混じっていたのだから……
恋愛して結婚することが一番幸せなことなのだと思っていた。
私にはもう、恋愛も結婚も…それがなんなのかがわからない。
櫻子姉様と晴彦さんは今、どうしているのだろう……
もしかしたらこの小説のように──────
「……ヒヨコ?」
気付けば目から涙が零れ落ちていた。
貴光さんが心配そうに私を覗き込んでいる。
「ご、ごめんなさい。ご飯温めますねっ。」
立とうとしたら腕を捕まれ、強引に胸に引き寄せられた。
「たっ…貴光さんっ?」
「小さい頃、俺が泣いていた時に母がこうやってくれたら落ち着いたんだ。」
これは…どう客観的に見ても抱きしめられているよね?
貴光さん的には泣いている子供をあやしている感覚なのかな……
こうやってくれたら落ち着いたんだって……全然落ち着かないよ?
私には逆効果だよっ貴光さんっ。
貴光さんの温もりが、匂いが、心臓の音がっ近い!
てか、密着してるっ!!
はっ…待てよ。
こんな風にされるのってこれで三回目じゃない?
きっとまた私はからかわれているんだっ。
「どうせ私には色気がありませんっ!」
「……なんで今それを言うんだ?」
「でも子供でもないのでこんなことをされても泣き止みませんっ!」
「そうか?元気になってる感じだが……」
「貴光さんは私のことを一体どう思ってるんですか?!」
「……どうって?」
やっぱり今のは無しだ。
なんとも思ってないって返ってきそう…そんなことを言われたらまた泣いてしまうっ。
「貴光坊っちゃま。大丈夫ですか?」
玄関先から柴田さんの呼ぶ声が聞こえてきた。
「待たせてすまない。すぐ行く。」
貴光さんのそばにはボストンバッグが置かれていた。
「また会社に行かなければならない。着替えだけを取りに戻ったんだ。」
そう…だったんだ。
相変わらずお仕事が忙しそうだな……
「一人なんだから戸締りはきちんとしろよ?あと火の始末と歯磨きと、明日も学校なんだから早く寝ること。あと……」
なんなのこれ…まるっきり子供扱いじゃん。
「一人で寂しいと思うが寝れるか?」
「平気です!寝れますっ!」
もうもうもうもうっ!!
私は貴光さんの奥さんになるんだよ?
いい加減ちょっとくらいはっ………
「さっきの質問だが、ヒヨコは自分のことがわかっていない。」
「もうその話は結構ですっ!どうせ私はっ……」
これ以上とどめを刺すようなことを言わないで欲しいっ。
「可愛いと思っている。」
………………へっ?
「だから無理して色気なんか出さなくったっていい。俺を心配させたいのか?」
貴光さんが……
笑ってる。
こんな風に優しく笑うんだ………
「行ってくる。」
玄関のドアが閉まったあとも、私はしばらくその場から動けなかった。
今のは…反則だ────────
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