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貴光さんについてわかったこと。
其ノ壱、実は甘いものが苦手。
知った時はビックリした。
だって私、ルーシーさんとお菓子作りをする度に貴光さんに持って行ってたんだよ?
どうりで…美味しいとも言わず黙々と食べてるはずだ……
苦手だから要らないって言えば良かったのに。
いつも私の目の前で綺麗に平らげてくれた。
私とルーシーさんが出会ったきっかけでもあるあのイヤリングは、貴光さんが初めて稼いだお金で買ってあげたものらしい。
ルーシーさんが朝起きたら枕元にそっと置いてあったんだって。
優しいけど照れ屋さんなんだなって思った。
其ノ弐、かなりのやり手。
数いる腹違いの兄弟の中で、異国の血が混じり毛嫌いされていた貴光さんは酷いイジメを受けていた。
絶対あいつらより上に立って金を稼いでやると小さな頃から口癖のように言っていたらしく、十代で会社を立ち上げた。
ああやって悪態をついたり周りに心を許さないのも、付け入る隙を与えたくないからなのかも知れない。
事業を拡大するために人脈が欲しかったとはいえ、そのために雛子様を利用したのは申し訳ないと思っているはずですよと、柴田さんは言ってくれた。
其ノ参、嬉しい時の癖がある。
思い起こせば何度かそんなことがあった。
姉の代わりに俺と見合いをする覚悟があるのかと貴光さんは聞いたのに、私が勘違いしてありますって宣言した時とか……
貴光さんとお呼びしてもいいですかって聞いた時とか、他にも何回か……
貴光さんは、嬉しいと人の顔をじ─っと見るのだ。
多分どう表現していいんだかわからないのだと思う。
あの時嬉しかったんだって思ったら、体が火照って仕方がなかった。
分かりずらい子でごめんねえとルーシーさんからは謝られた。
12月も半ばに入り、寒さが身に染みるようになってきた。
今日も休日なのに貴光さんは会社に行くようだ。
玄関までお見送りをした時に、私はマフラーを巻いてあげた。
「……これは?」
「首元が寒いだろうと思って編みました。」
「ヒヨコが編んだのか?」
背広にも合う渋めの色で編んでみたのだけれど…我ながら下手くそながらも上手くは出来たと思う。
じ───っと見てくる貴光さんと目が合った。
「ご、ご迷惑でしたか?」
「俺は首に布を巻くのは嫌いだ。」
いつもなら素っ気ない言葉にガ───ンてなってたところだ。
貴光さんはマフラーを外すことなく、行ってくると言って出かけていった。
ダメだ…ニヤニヤしちゃうとこだった。
貴光さん、よく見たら口元緩んでたし……
私達の様子を見ていたルーシーさんもクスクスと笑っていた。
良かった。貴光さん……嬉しかったみたいだ。
だんだんと、貴光さんがどういう人なのかが分かってきた。
もっともっと、私に心を開いて欲しいな………
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