いつ終わるか分からないこれを、もう一人のワタシへ

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いつ終わるか分からないこれを、もう一人のワタシへ

 わたしはドキドキしながら自分の部屋に入る。部屋にはプロプスが待っていた。プロプスは翼をバタバタさせて、無言でわたしがくるのを催促している。 『全く……コウイウコトヤッチャ、イケナインダゾ』  プロプスはわたしが部屋の戸をしっかり施錠したことを確認して、そう言ってきた。プロプスはわたしが7歳の時に自作した、通信専用の人工知能搭載のロボットだ。わたしが好きなセキセイインコの姿をしている。  時折早口になると処理が遅れて片言になるのが可愛い。でも言っていることは可愛くない。わたしは視線だけで、プロプスに受信したデータを再生することを促した。 『そう睨んだってダメなんだぞ! 《受信メッセージを再生します。双交歴501年 4月7日 座標B地点からのメッセージになります。》』  ピッーという音を合図に、声が聞こえてくる。 『元気にしてる? あたしは相変わらずよ。今日も家の手伝いをして、生まれた弟の面倒を見ていたの。最近は寝つきがよくなってきて母さんも安心しているみたい。朝も夜も動き回るのは変わらないけどね、あたしも母さんの役に立てるように少しでも協力しているわ。仕事以外にも家事をすることもあるの。セレネは学校に通っているのかしら? 勉強頑張ってね、じゃあまた』『メッセージの再生を終了します』 『本当止めろよな、これ違反だぞ』 「分かっているわよ、でも知ってしまったんだから仕方ないでしょ? こんな機会滅多にないし、貴重なんだから!」 『見つかった時はボクを解体しておくんだぞ』 「分かってる」  プロプスのいうことはもっともだ。だって今の通信は違法なんだから。 これはわたしの住むシビリ星の双子星といわれている、プラソ星の人との通信なのだから。プラソ星との通信は法律で禁止されている。  でもこの機会を逃したくはなかった。だってわたしは元々はプラソ星の住人なのだから。  わたしはチェンジリング契約の当事者だ。  チェンジリング契約というのは、同じ年齢の子供たちがその星に適応できないと診断された場合に、子供たちを交換するという契約だ。  これは双子星を言われている、シビリ星をプラソ星の間でのみ行われる契約だ。この星全体で管理する星間通路で子供たちは交換され、それからは本来の家族とは切り離される、勿論もう二度と会うことはない。  だというのにわたしが交星留学の一環で、三か月間あちらのプラソ星に行ったとき、会ってしまったのだ。わたしと入れ替わった子を。つまりもう一人のわたしといってもいい、その女の子を。  その出会いは偶々だった。  社会科学習に出ているとき、現地の学生に案内しても経っているときだった。その現地の学生の友人がその女の子だった。わたしの家族の写真を貰っていた彼女が、もう一人のわたしだと気づかないわけがなかった。  わたしはその彼女となんとか二人きりになり、なんとかその子と仲良くなった。そして事情を説明して、プロプスの双子機ともいうべき通信ロボットのアロアナを渡して別れたのだった。  本当幸運としか言えない出会いだった。  本当はいけないことだと分かっていても、わたしは関わることを止められなかった。本来なら体が弱いわたしがあちらに、そしてもう一人のわたしともいうべき彼女――パトラスがこちらにいるはずだった。  本来の家族と一緒に暮らしたい気持ちは、彼女が一番わかってくれるはずだ。わたしはそのことをよく分かっていた。  わたしはこちらの家族の近況を、プロプスに吹き込んだ。
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