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たった1杯のバーボンロックを数十分で飲み干したその男はすぐ店を後にした。
黒服の上司に誰だったのかを聞くと、有名な貿易会社の常務取締役だとか。
現社長も何ヶ月か前にある客に連れられ初来店したと聞く。
店側からしてみれば懇意にしてもらいたい上客の一人だったようだ。
その常務が一人で...ママからしてみればチャンスの時だったろう、なのに数十分で帰るってことは...この次は無いのかもしれない。
「ボトルキープはしなかったの?」
「はい、次回にと言われて...」
「その次があるかもどうだか...」
ママと上司が伝票前にしてミーティングしている。
売上は上々だったはずなのに、あの男がボトルキープしなかったことがお気に召されなかったと判断したようだ。
「もし次回ご来店されたら誰を付けますか?No.1の文乃(フミノ)あたりはどうかと...」
「それも確実な手かもしれないわね、次回があればの話だけど。
もし文乃でダメだったら惜しみなくその次を付けなさい。次は...外せないわ」
「はい」
やはり上客だったのだと二人のミーティング内容で納得したおれは“お疲れ様”を告げ店を出た。
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