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「ねぇちゃん、どうかした?」
「ん?何でもないよ」
あと数歩で母さんたちが眠る墓石だというのに、足の止まった私を気にしてか醒が振り返る。
何でもないフリして笑顔作ってまた一歩を踏み出した。
綺麗に整えられた芝生に並んで建つ3つの墓石。
右端は母、真ん中は父、そして左端に兄の墓が。
両親より3年前のこの日に亡くなった兄。
私は兄が亡くなったことで今また生というものが感じられている。
11年前に突如亡くなった兄、そして私は闇の中から抜け出せた。
墓前で我慢することもなく流した涙が溢れる。
その目は兄からの贈り物。
一度失った視力というものを兄は死して光を与えてくれた。
でも心から喜べるものではなかった。
だって...光を得たことで数日後に兄の死を知る...こんな悲しいこと、幼かった当時の私にとってとてつもなく悲し過ぎて自分が罪な存在に思えて苦しさに溺れる日々を送るしかなかったからだ。
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