終わりの合図

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終わりの合図

昔の自分にとったら、今の私の行動は信じられないし想像もつかないだろう。 一夜限り。 互いに秘密厳守の契約も交わした上での合意の関係。 場所は私の部屋を指定した。 睦言も体勢も出来るだけ細かく、よりあの場面の再現に近付くように。 気持ちの伴わない行為。愛だけがない欲の求め合い。 何も感じなかった。 可もなく不可もなく、ただ淡々と過ぎ去ったという印象しか残らず、終わった後もこれと言った心境の変化は訪れない。 正直、拍子抜け。 意味がない無駄なことをしたと、その時は思っていたけれど。 大間違いに気付いたのは貴方と会った瞬間だ。 涙が出る。嗚咽が漏れる。止めようもないほどに。 自分の醜くさから逃げたかった。 責める気持ちを手放したかった。 許してあげたかった。 愛しているから。 もう認めるしかない。 どうやっても貴方への恋情がなくなってくれないことを。傷や棘や楔と同じく、私の心の奥底に根を張り居座り続けていることを。 解けない。失くせない。離せない。 何よりも私が、心が、二度と嫌だと訴えている。 酷い人なのに、ズルイ人なのに、信じきれない人なのに。 好きなのだ。 ただただ、好きで好きで、その気持ちが溢れ出す。 バカな事をした。 相殺どころか自分の犯した罪の重さに押し潰される。 貴方を裏切った。 自身の気持ちさえ私は裏切ってしまった。 貴方を信じず、自分を信じず、楽になりたいが為に逃げることしか考えなかった結果、私は何もかもを失くしてしまった。 人を愛する権利も、望まれる権利も。 どちらか片方だけでも幸せだったのだ。 今なら分かる。 真実なら、自分を誇れるのなら、嘘じゃないのなら、愛されなくても本気で愛せる相手に巡り合えたことがすでに奇跡だった。 けれど、それを人は忘れてしまう。 愛されたい。愛して欲しい。もっとこうして。ああして。そうじゃない。それでもない。もっと気にかけて。もっと考えて。もっともっともっと。 いつしか私は貴方に、信じさせて と思っていた。 願っていた。 そしてそれをしてくれないからと、暗に貴方のせいにして、自分が辛いという隠れ蓑に紛れて罪を犯した。 卑怯だった。気付かなかった。 貴方を目にするまで。 自分にとって都合の良い貴方像を私が勝手に作り上げ押し付けていた。あの当時も今も変わっていない。痛みが教訓になっていない。 貴方だけが悪いと、誠実じゃなかったと、責めて恨んでいる。自分の非を顧みずに。 気持ちを吐き出せば良かったのだ。 嘘の姿を見せず、隠さず、最初から本音の部分を見せていれば、あんな事をしなかった。しでかさなかった。 後悔しかない。 時間が巻き戻るなら戻して欲しい。 激しい慟哭の末、全部をぶちまけるように貴方に叫ぶ。部屋に轟く残響は、痛くて苦い私の罪の声。
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