第一章

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第一章

「はぁ、終わった……。まじ、疲れた」  塾を終えた私は愚痴をつぶやきながら、鞄にテキストを詰める。  教室を出てエレベーターに乗ると、階数ボタンを押してあくびをした。  学校で勉強をしてさらには塾って……ありえない。  そこまで勉強する必要はあるの?  勉強なんてしなくたって、大人になれるのに。  一生懸命頑張っても、努力が報われるのは一握りの人間だけでしょ?  それなら、好きなことだけして生きていきたい。  一階に到着して正面玄関を出ると、外の空気が生ぬるい。 「あっつ……」  投げ捨てるように独りごちた。  十八歳の夏――。  今年は、例年よりも温度が高い気がする。  暑さのせいでやる気がさらに奪われているかも。  帰るのが面倒くさくなり、とりあえず花壇に腰をかけた。  私、佐竹千華(さたけちか)高校三年生。四月で十八歳になったばかりだ。  ごく普通な女子高生で特に特徴もなく、太りすぎず痩せすぎず……な感じ。中の中。  大人っぽく見られたくて髪は茶系。ロングヘアーを二つにゆるく結んでいる。  奥二重で腫れぼったい目は、まつ毛をビューラーでくるっと巻いて、大きく見せていた。  七月の中旬、もうすぐ夏休みになる直前だ。  受験を控えているが危機感なし。べつに志望する大学に入らなくてもいい。 ……というか、進路をどうしようかまだハッキリと決めていない。  塾の生徒達が玄関から出て、別れの挨拶をして散っていくのをぼんやり眺めていた。  そこに親友の相賀澪(あいがみお)と満田(みつだ)ヒカリがやってきて、私の隣に腰をかける。 「まじ、暑いんですけど!」 「アイス食べたーい」  花壇の花達はいつも、女子高生の文句を聞いていてうんざりしているに違いない。無駄に声が大きいウチらは仲よし……いや、悪友三人組?  学校も塾も同じで四六時中一緒にいる。どうでもいい話ばかりをしているけど、それが楽しい。  澪の容姿は、いかにもギャルって感じ。バッサバサのつけまつ毛がトレードマーク。  ヒカリは、サラサラストレートロングヘアーで切れ長の目。身長が高い。年齢よりも大人っぽく見える。  二人ともキスをしたことがあるらしい。  私はまだファーストキスすらしたことがないが、恥ずかしくて経験はあると嘘をついている。   親友にも本当のことを言えない、私は弱虫だ。 「担任がさ、お前アピールポイントないから、ボランティアでもやれと言うの。失礼だと思わない?」  私の愚痴に、澪とヒカリがありえないというふうに笑う。 「めっちゃ、失礼じゃない?」  澪がかったるそうにつぶやく。 「遊ぶ時間、なくなっちゃうじゃん」  ヒカリがスマホを見ながら答える。 「それよりもお金ほしいよね!」 「うちの学校バイト禁止だし。隠れて働くとか……?」  澪とヒカリの会話を聞いて私は、頷く。家庭の事情がある場合など、学校に申請して認められたらバイトはできるが基本は禁止されている。  ボランティアだなんて面倒なことはしたくない。  お金をもらえないのに時間と体力を使うなんて馬鹿みたい。  進学なんてしないで早く仕事がしたい。  自分の力でお金を稼ぐって、かなり魅力的だ。  はぁ、早く大人になりたい。
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