♀決意

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♀決意

私はまだ人間の事をよく知らない。 知っていたのかもしれないが、今は分からない。 ただ、目の前のここに住む魔族達から聞く話では、とても酷い生き物であると言う印象。 そんな事を考えていたら気分が滅入ってき、モヤモヤモヤモヤしていた。 しかし今日は、私の目覚めた復活記念日という事で盛大なパーティーが行われる事になった。 おかげでモヤモヤしていた気分が少し晴れそうな気がする。 みんなに呼ばれて大きな部屋に連れていかれた。 そこにはとても大きなテーブルがあり見たことの無い食事が沢山ならんでいる。 記憶を無くしてるので根拠はないが、絶対に見たこと食べた事の無い物ばかりだ。 レーティアは、目の前の大きなお皿の上にある黒い鱗におおわれた大きなトカゲのしっぽみたいなものはどうやって食べるんだろう・・・と眺めていた。 「レーティア食べないのか?」 「いえ、その、食べ方が分からなくて・・・・・・」 「ふむ・・・」 王はしっぽをとり、両端を握りふたつに折った。 そしてしっぽの細い方を引っ張ると中の肉がスルッと抜けた。 「こうして中の肉を食べるんだ」 王はそうして剥き出た肉をレーティアに渡した。 受け取ったレーティアは恐る恐る顔を近づけ1口かじってみた。 !!! 「美味しい!!」 「そうだろう。これは、この魔界の中でも数少ないブラックドラゴンのしっぽだ!」 「あの後クラリアスがレーティアの為にと魔界の奥地まで取りに行ってくれたんだぞ。後で礼を言っておきなさい」 「はい!」 あの目がいっぱい人も優しいんだ。 レーティアはその後も見た目にはややグロテスクな魔族のご馳走を、美味しい美味しいと食べていた。 王は時間がある時は極力、レーティアのそばにいるようにしていた。 記憶が無いレーティアを小さな子供を育てるように色々教え、学ばせていた。 進んで戦わせる事はしないが、否が応でも戦わざるを得ない時もあるだろうと言うことで、少しづつだが戦闘訓練も行っていた。 レーティアは身体能力に長けているようで、接近戦のセンスも抜群だった。 あと一、二ヶ月もすれば、各部隊の部隊長クラスに迫る程だ。 ・・・そして2週間が経った。 もうすっかり魔族の姿も見慣れて驚いたり警戒したりする事は無くなっていた。 魔族唯一の女の子というのもあり、周りからチヤホヤされ放題! 楽しく嬉しい毎日を過ごしていた。 最近、魔法にも興味が出てきたようで、魔族の中でも三本の指に入る魔法のスペシャリスト"漆黒のカルヴァーニュ"に色々教わっている。 レーティアは魔法のセンスもあり膨大な魔力の持ち主である。 才能があるかどうかは分からないが日々努力を惜しまず頑張っていた。 ここまで魔法にも格闘にも優れている魔族は他にいないだろう。 まさに魔族の中の勇者的存在である。 ・・・さらに2週間が経った 明らかに目覚めの時とは別人。 その目に不安の影は全くなく、魔族の一人として自覚を持ち始め、魔族としての生活は当たり前のようになっていた。 魔族の歴史にも興味を持ち80年前にあった勇者との戦いのことも詳しく調べはじめた。 ━━━━。 人間と魔族の戦いは60年ほど続いた。 戦いのきっかけは人間族が魔界侵略を企てた事から始まった。 人間たちの醜い領地争い、資源争いが過熱しその資源にも余剰がなくなり限界が来た。 人間たちはひょんな事から魔界の存在を知り、卑しくも魔界を自分達のものにしようと考える。 その事を知った魔族は魔界に侵入される前に食い止めようと人間界へ繰り出す。 そして、そこに本拠地を構え人間界で防衛する事になる。 無論人間達を滅ぼそうなどという考えではなく、あくまで魔界への侵入を防ぐのが目的。 しかし、人間たちは自分の都合の良いようにしか物事を捉えない。 "魔族達が人間界を侵略しに来た"となったのだ。 それを正義に魔界へ進行する腹だった。 その周辺は戦いの場となり双方多くの血がながれた。 そんな小競り合いが30年ほど経った頃、人間側に異世界から召喚された"勇者"と言う存在が現れた。 勇者は今までの人間とは桁違いに強く戦局は大きく動いた。 魔族も魔界の奥地に住むドラゴンや、魔界の中でもトップクラスの力持つ魔族をも繰り出し対抗する。 今までの小競り合いが、強者同士の激しい戦いへと変化した。 激しい戦いも気がつけば30年。 しかし勇者1人に対して、魔族は次から次へと殺られていき、ついに魔王とその近しい者だけになった。 そして運命の日がやってくる。 レーティアの異世界転生。 魔王は人間サイドに噂を巻く。 "女王は勇者に対抗する力を得るために、王と娘を自ら喰らいその力を自分のものとした" "そして魔王の魔力で生み出された魔界は、魔王の魔力を持つ女王が死ぬ事で崩壊し消滅してしまう"と。 そして、ついに魔族最後の一人となった女王は勇者に殺される。 人間界から魔族は滅亡し、魔界も崩壊し消滅した。 人間界の歴史にはそう刻まれる。 だがその時に、自らの魔力を封じる事でその存在を消した魔王は、異世界転生を行ったレーティアの肉体を持って、人間が立ち寄ることの出来ない火山の地下深くに潜り、然るべき日の為に苦渋を舐めながら隠れ生き延びた。 ━━━━━。 ここまでまでが魔族の歴史として残っている。 そこに今、新たな歴史が追加された。 それから耐え忍ぶこと20年。 その間に、生き残った魔族の中で魔王と同じ事を考えた者数名だけが、自らの魔力を封印し人間たちに気づかれないように火山の地下を目指した。 そして魔王と集まった側近達は魔力を無くしたまま時を過ごす。 ようやく、その日が時来た。 勇者は魔族との戦でその力を大きく消耗しており、とうとうその命が尽きたのだ。 勇者は世界規模で悔やまれ、各国から最高位の僧侶や神官が集まり、その大いなる魔力で死を弔らい見送った。 それを感じた魔王は地下から地上に這い上がる。 人知れず勇者の墓から魔力の残るその肉体を喰らい自らの魔力として取り込んだ。 そして魔界の扉を開きレーティアの肉体をつれ魔界に戻った。 魔王は側近の魔力の封印を解き、側近達は元の魔族に戻る事が出来たのだ。 そして魔王はありったけの魔力を使い異世界転生を行う。 そして、20年の時を経て、亡き女王との愛娘レーティアが蘇える。 レーティアは歴史を振り返り、学び、知る事で、死んでいった魔族達の無念な想い、その身を犠牲にしてまで魂を守ってくれた女王の想い、魔族の尊厳まで捨てて肉体を守ってくれた魔王の想い。 これらを背負い魔族の復活に強い想いが込み上げて来るのだった。 それと同時に、人間達を許すことが出来ない怒りの炎も燃え上がっていた。 レーティアはその胸の内を抱えたまま、魔王のところへ向かった。 王はレーティアの目を見た瞬間、レーティアの中で何かが変わったと気づいた。 「王・・・いえ、お父様。私は魔族の歴史を振り返り、何も非がない私たち魔族にした人間達の卑劣な行いに怒りをおぼえました。ここに魔族の復活と人間たちを粛清する事お約束いたします」 「父と呼んでくれ、そこまで魔族の事を・・・・・・。ありがとう。しかし勇者がいなくなった今、人間など取るに足らん。だから今は異世界転生で使い果たした魔力の回復に専念しようと思う」 「では私が代わりに人間たちを・・・」 「レーティア、お前も転生して日が浅い。無理をするな。ここはじっくり行くとしよう」 「お父様か、そう仰るなら。レーティアまたまだ強くなってみせます」 「ああ、我が娘よ!」 レーティアは勇者に負けないくらい強くなりたいと言ったところ、クラリアスを初め側近達の勧めで、魔界の奥地で修行を行おうと言う話が出た。 魔王はレーティアの身を案じその事に反対だったが、信を置くクラリアスに 「親バカですぞ」 と言われてしまい、返す言葉もなく許可したのであった。 ・・・・・・2ヶ月後。 レーティアは魔界の奥地から戻ってきた。 まるで別人か?と思うほどのレーティアの力に魔王は驚いた。 内包するその力と魔力は魔王に迫るところまで来ていた。 幼さが残る容姿と秘めたる力は、まさに魔王の娘と呼ぶに相応しいものだった。 「レーティア、お前凄いな。見違えたぞ!」 レーティアは満面の笑みで答えた。 「お父様の娘ですから!」 魔王も釣られて笑顔になっていた。 「それだけの強さが有れば問題ないか・・・・・・」 「お父様?」 「レーティア、人間界に行ってみる気はないか?」 「え?どういう事ですか?」 「実はな、勇者の墓には女王のツノがある」 「母のツノ・・・ですか?」 「勇者は最強最後の魔族である女王にトドメを刺した証としてその角を持ち帰った。それが勇者偉業の証として墓に収められているそうだ。我が女王の1部を人間界に置き去りにしては可哀想だ。それに、勇者の墓には魔族を滅ぼした伝説の剣とやらもあるそうだ。新たな厄災が起きた時の為に強力な魔力で封印してあるらしい。今のお前なら封印を解き持ち帰れるかもしれん」 「分かりました。お母様を人間界より連れて帰ります。そして魔族を滅ぼしたその剣で今度は人間達を滅ぼしてやります」 「そうだな、何だかレーティアは言う事が魔王じみてきたな」 「な、娘の私になんて事言うんですか!お父様酷いですっ!」 「ははは、すまんすまん、女王似だったな」 「もう・・・・・・」 「わかってると思うが、その姿のままで人間界に行ったら大変な事になる。クラリアスに聞いて人間に化ける方法を聞いておけ。私は人間に化けるのがとても苦手なんだ」 「お父様にも苦手な事があるんですね」 「まあな。ただ、人間に化けてる間、魔族の力は抑制されてしまう。魔族の姿の時の強さと見誤るなよ。それでもある程度は強いと思うが人間の中にも強い奴らはいるもんだ。勇者程でないにしてもな」 「はい!気をつけます」 「それとないとは思うが・・・・・・万が一、万が一だぞ、新たな勇者が召喚されており、出会ったなら全力で逃げろ」 「逃げるんですか!?」 「ああ、お前は魔族の宝だ。万が一があれば魔族は本当に滅んでしまう」 「どういう事ですか?」 「魔族には二種類あるんだ」 「魔力で生み出された魔力生命体と、レーティア、お前みたいに母親から生まれた純生命体」 「魔力生命体・・・・・・純生命体・・・」 「ああ、純生命体は私とレーティア、各部隊長だけだ。それ以外の魔族は魔力によって生み出された魔力生命体だ」 「魔力生命体だろうと、純生命体だろうと魔族から生まれている事には何も変わりない。だから私は魔族を種類分けしないし、優劣や格付けなどもするつもりは無い。魔族にはそのような事、関係ないのだ。ただ、魔力を使わない純生命体の魔族を産むことが出来るのはレーティアお前だけなんだ」 「そうなんですね。その事しっかり肝に銘じておきます」 「クラリアスを護衛として連れていくが良い」 「はい!ありがとうございます」 「しっかり言うこと聞くんだぞ!」 「行って参ります!」 そうしてレーティアとクラリアスは人間に化け勇者の墓に向かうのだった。
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