第1話

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「ねぇ、念のために聞くけどね」 さっちゃんの前置きに顔を上げた 「ふっちーって彼女いないよね?」 「……知らない」紗香がハトマメ顔でそう言った。 「はぁ!? 知らないの!?」 「彼女いないってこの前言ってた!」 紗香がさっちゃんに怒られる前に慌ててそう言った。 「……何で朱里が知ってるの?」 ……う。そうだった。 「この前たまたまそんな話になって」 「たまたまそんな話になる?」 紗香は、ふっちーのこととなると、とても厳しい。 「うん、何か5月になったら急にカップルが増えるんだって。そろそろ高校生活も馴れてきた頃でしょ?」 「確かに、告った、告られたが増えてくるよね」 「……え、そうなの?」 紗香が愕然としてそう言った。 「ヤバい。色々ヤバい。ねぇそれにしても朱里、ふっちーとそんな話するの?」 「はいはい、もう疑わない疑わない、こんなに付き合わせといて、紗香!」 と、さっちゃんが間に入ってくれた。 「だってぇ、羨ましい!同高!」 「だからぁ、ふっちーに言われた時に私と朱里がいるから、N高行くって言えば良かったんでしょ!?」 「さっちゃあん! 天才!? だけど、時すでに遅しー! あの時にアドバイスしてほしかったよー」 「いや、受験まで結構あったよね?」 さっちゃんが呆れてそう言った。 「ふっちーが朱里を好きだったらどうしよー! 仲いいしー!」 今度はよく分からない心配をしだして 「大丈夫だって、紗香! 私だって好きな人くらいいるし!」 紗香を安心させたい一心で気づけば、ポロリ、口を滑らせた。 二人の固まった顔を見て、時すでに遅し。 「え、ちょっと聞いてないけど!?」 言ってないからね。と、心の中で言う。 「だ、誰!? 誰? ふっちーだとしても、ちゃんと言ってね」 「いや、違う。その、他校なの」 「え!? じゃあ同中?」 「それも違うくて……」 人に話すだけでも、こんなに緊張するのか。 「好きじゃなくて、格好いいなって思ってるくらいで……」 「うん、誰よ」 ぐいぐい来る紗香に反して、さっちゃんが穏やかにそう聞いた。 「知らない」 「知らない!?」 「1回あっただけの人で……」 「ちょっとぶつ切りで喋らずに、だーっと頼む! あ、もしかして……電車でいつも同じ車両になる、名も知らぬ君……的な!?」 「1回会っただけって言ってるっしょ。だいたい何その紗香の想像。カップケーキとか、後輩とか」 「あ、これこれ……」 紗香が月刊誌の少女漫画を鞄から出した。 「デカイし重い! あんた、教科書は?」 「え、重たいから学校」 「……いや、これも重いでしょ」 「これは、バイブル……」 「Webで読めよ!」 話が逸れたのを良いことに、ふぅっと一息つけた。
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