第3話

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みんなの恋が実るわけじゃないのは、相手のあることだし、当たり前だ。誰もが納得することも難しいのかもしれない。 だけど、みんなの恋が実ればいいなって、思わずにはいられない。 ちぃこちゃんだって、やっぱりふっちーを好きで“変な奴”になってるからこそ、この状況を理不尽だと思っても許せないわけで。 ふっちーには好きな子がいる。それが紗香なら嬉しいのも本当の気持ちで、むっちゃんの気持ちを知った以上は、むっちゃんの恋も実ればいいと思ってしまう。 私がいくら応援しようと、祈ろうと、それを決められるのはふっちーだけだ。私はこの恋に“部外者”だ。 だけど、恋する気持ちは私にも分かってしまったから。うまくいかない恋は……辛いな、そう思う。 “部外者”じゃない恋は全く進展しない。というか、端くれさえ見えなかった。 ──なのに今日も、あの本屋さんで私は放課後を過ごした。 彼の言動をひとつひとつ思い出し、最後にあの笑顔を思い出した時には、心臓がきゅうっとなって、思わず胸に手を当てた。 せめて、名前だけでも知りたい。あのハンカチどうなったのかな。 同じ高校なら……むっちゃんみたいに“認識”してもらえたのに。さっちゃんみたいに2回も告白する勇気はないけれど、名前くらいは呼んで貰えたかも ちぃこちゃんだって、他クラスの男子に告白する勇気、凄いなぁ。 あの時、名前くらいは……いや、実は違う高校なの!とか言えてれば。チャンスの神様は前髪だけっていうもんね。彼の後ろ姿を思い出して、切なさにまた胸を押さえた。 ふぅ、とため息を吐いて、立ち読みしてたバスケのルールブックを棚にしまう。すぐ横に“月刊バスケットボール”の文字。誰かがそれを手に取った。 この人もバスケするのかな。横目で見れるくらいに確認する。 チェックのズボン。捲った袖。ブレザーは着ていない。ネクタイは紗香と同じ色。柔らかそうな髪。あの時と違うのは、ヘッドホンが首にかけられ…… あの人だ!! そう認識した瞬間、心臓が物凄い音を出して、息が止まった。 な、名前、名前を、聞かなきゃならなくて、どうしよう。頭の中がまとまらないうちに 「おい、行くぞー」 同じ制服の男の子にそう声を掛けられ、彼は本屋さんを出て行った。 一瞬の出来事。顔も確認出来なかった。だけど、“彼”だって、分かった。 残ったのはうるさい心臓。それから気づけば、彼が手に取った月刊バスケットボールを買っていた。
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