第3話

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――実在した。  家に帰ると、月刊バスケットボールを抱いて、なぜだか泣けた。私はあの人の事を好きなんだなって思って泣けた。 あの人も、バスケ好きなのかな。どのページ見てたんだろ。この本は、彼の顔……見れたんだろうな。なんてバカなことを考える。何でか、また涙が出てきた。こんな自分があるなんて、知らなかった。 もし、次にあの人に会えたら……声を掛けたい。そう思った。みんなこんな気持ちなのかぁ……会えて、嬉しい。 だけど、声も掛けられなくて、何て声をかけていいか分からなくて、そんな自分が情けなくて、彼は私の事を知らなくて……それが辛くて……。とにかく、自分でもよく分からない感情がごちゃ混ぜになって、この日は泣けた。 みんなこんな気持ちを乗り越えて付き合ったりしてるのかなぁ……。私にはとても凄すぎて、現実のように考えられなかった。  誰にも相談もせずに2回も告白したさっちゃんは……やっぱり“師匠”と呼ぶにふさわしい。ズッと出てきた鼻を拭いた。たまたま会っただけで、こんな事になるんだから、同じ高校じゃなくて良かったかもしれない。 そう思ったのに、こんなにしんどいのに、また、会いたいと思った。だから、やっぱり同じ高校が良かったなぁなんて、思っては否定して、思っては否定して、そわそわと落ち着かない情緒不安定な状態で過ごした。 あの人の触ったこの本を真似して買ってページをめくって……。音楽は何を聞いていたのかな?あの一瞬を切り取った様に何度も何度も思い出した。……背、高かった。髪は、あれからまだ切ってないのか、長めで……頭の中であやふやなモンタージュを始めた。 想像出来る事は全部した。一緒にいたのは同い年の男の子。女の子じゃなくて良かった。 靴は……ああ、今回は覚えてないなぁ。だけど、白だった気がする。バッグは相変わらず黒だったけれど、大きかった気がする。 声は……たった一文字だったけど……低く響いた。やっぱり、かっこ良かったと思う。この本を持った大きな手も……。 もう一度、月刊バスケットボールをぎゅっと胸に抱く。 はぁ。当分、熱が引きそうにない。熱くなった頬を無意味に扇いだ。バスケと音楽。 今日の新たな情報が、まるで宝物のように思えて……苦しい中に、心地よさも加わった。
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