第3話

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── 「何やってんの、あんたら」 さっちゃんの言葉はそりゃそうだろって感じで、私は月刊バスケットボールを手に、1ページづつ捲ってはふっちーに見せていた。 「コイツさぁ、最新の“月バス”見せびらかすだけで、俺に読ませてくれねぇんだよ」 ふっちーが不満をさっちゃんに言う。 「は? 月バス!? 何で朱里が月バスなんて持ってんの?」 「そうだろ? おかしいんだよ。見てもいいけど、触ったら駄目っつんで、こいつが1ページづつ捲って……って、何でだよ!」 我ながらバカだなぁと思う。片時も離したくなくて、わざわざ学校にまで持ってきてしまった挙げ句、バスケットマンのふっちーの横で広げたのだから。 「何でなの? 朱里。何で買って、何で触っちゃいけないの?」 さっちゃんにもそう聞かれ、そりゃあ聞かれるよね。ふっちーにも“気になる子”の事は少し話した事があるし、さっちゃんは、よくご存知だ。 私は昨日の出来事を正直に話すことにした。 「いや、でも朱里、まだ本屋に通いつめてたんだ!」 そう言われて赤くなった。 「そいつも、バスケやってんじゃねぇ?」 「やっぱり、そう思う?」 「んー、月バスってあんまり読まないだろ。あ、今体育がバスケとか?」 「余計、読まないわ」 と、さっちゃんがつっこむ。 「今日、放課後来るんだろ? K高のバスケ部なら間違いなく、来るぞ」 考えてみれば、そうだ。固まる私に 「見といてやろうか?」 ふっちーがニッと笑ってそう言った。 「背。背が高くって……か、格好いいの……く、靴が……白でバッグが黒……」 「落ち着いて、朱里」 「そうよ、落ち着きなさい、朱里ちゃん」 ふっちーがからかってオネェっぽく言ってくる。 顔が熱い。けど、会えるかもしれない。そう思うとじっとしてられないくらい、心が波たった。 「というわけで、これは読ませろ!」 そう言ってふっちーが月バスに触れた。 「きゃー! やめてぇ!」 「仲良くなって、また触って貰えばいいだろ? 何なら(ちょく)で触らせて貰え! こんなので満足してねーで」 ……そう、だけどさ。直って、もう。 「見てみろよ、背。190くらい?」 「へぇ? そんなにないよ! ふっちーくらいだよ」 「強豪だとC(センター)は190くらいザラだぞ?何なら2メートルだって優に越える」 「そうなんだ……」 「ま、公立高の俺らにゃ、知れてるけど180そこそこだと……細い? そいつ」 「いや、ちょうどいいくらいで……」 格好いいって言いかけて止めた。そこはきっと聞かれてないから。 「俺と同じポジションくらいかなー。ま、今日見に来い!」 「そうだね」 はぁーっとため息を吐いて、ふっちーに取られて月バスの無くなった机の上に、教科書を出した。
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