第4話

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私は唇の色が薄い。顔色が悪く見えるせいで、色付きのリップはいつも持ってる。今さら何とか出来るの身なりは、このくらいのもので……風紀検査はあるものの、うっすら化粧してる子も、髪を明るくしてる子もいる。学校出たら、着崩したり…… って、そんなことより! 動揺してしまう。本当にあの人が……バスケ部だったらどうしよう! 物凄い緊張してきたころ、K高のバスケ部より早く到着した紗香も、目に見えて“物凄い緊張してる”のが分かった。 「どんだけ、チャリ漕ぐの早いのよ! 」 肩で息してる紗香にそう言った。 「あ、朱里、リップ貸して」 それを聞いて紗香の女子力も、全然だな。と、思ってリップを手渡した。それから、紗香の乱れた髪を整えるのを手伝った。 だけど、紗香のこの一連の努力、全く無駄なんじゃないかと思う。なぜなら、再び髪を乱して顔を隠し……た。だけじゃなく、体育館2階のギャラリーでも、当然ながらフロアの片隅でもなく、下の小窓、鉄格子の間から見てる。全体が見渡せない故に、そこから引いて見たりして、それはもう……花壇とか、手洗い場とか呼ばれるところだ。 「ねぇ、ギャラリー行こうよ」 「この前、見てたのバレたでしょう? 好きだって、バレちゃうじゃん」 「このままだと、“変な奴”しか残らないよ?」 せっかく顔は可愛いって言って貰えてるというのに。 「あ、そうだ、紗香……」 私は、昨日月刊バスケットボールを購入した経緯を簡単に説明した。 「え!? マジ! バスケ部にいたら熱いね! 一緒に応援出来る! 」 紗香が大きな声で言ったもので、慌てて止めた。 「ちょっと! ここ、無駄に近いんだから、聞こえるよ!」 「ご、ごめん!」 「あと、もうひとつ。むっちゃんも見に来てると思う。今週から、むっちゃんクラスで浮いてるみたいで……お弁当、一緒に食べてるんだ」 「そっか。むっちゃんは……2階のギャラリーで見てるのかな? 」 紗香がボソリ呟いた。 「ここから見えないってことは……2階かな。一人でも見に来るって言ってた」 私がそう言うと、紗香は黙ってしまった。 「……好きなんだろうね、むっちゃん。その……ちぃこと喧嘩してまで、さぁ。クラスから浮いても、引けないくらい、好きなんだよ」 「本当、そうだね。だけど、誰かさんだって、他校に忍び込むほど、好きなんでしょう? 」 私の言葉に、体育館を見たまま 「好き」 紗香はそう言った。
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