第4話

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「わぁ、綺麗なふくらはぎ! 」 ふくらはぎしか見えないわ、ここからじゃ。 「ねぇ、紗香、2階行かない?」 「ちょっと勇気蓄えてくるからさ、今日はここから……」 「そんなに恥ずかしいものかなぁ……」 「私もさ、このままじゃダメだなって思う」 紗香はそう言って……2階のギャラリーが見えるくらいにしゃがんだ。 「このままじゃダメっていうかね、このままじゃ、“嫌”って、思ったんだよね。ふっちーが誰かと付き合う。とかさ。“嫌”って、思った」 紗香が私の方を見据えて、「だから、このままじゃ、ダメだなって思う」 何かを決心したようにそう言った。 「うん、頑張って」 そう言って頷いた。頑張らないとって、分かる。だけど、頑張るって凄く難しい。 「朱里、あの人いた?」 「いや、分からないんだよ。なんせ、ふくらはぎしか見えない。向こうのゴール下まで行く頃には全体が見えるものの……遠い」 「甘いわね、私をなんてふくらはぎだけで分かる。シュートフォームとか、走り方とか……後ろ姿でも分かる」 キャリアが違うと言わんばかりの紗香に 「いや、私……ふくらはぎとか見るの初めてだし、制服では足出ないでしょ!? 」 「バスケってふくらはぎの位置が高いんだよね。キュッて上の方にあって。バレー部とはまた違うね」 ……人の話、聞いてないな。ま、いいか。 「ジャンプの仕方が違うからって聞いたよ、それ。陸上とか、種目によって違うのかな? 」 「スポーツにおける、ふくらはぎの発達の違い……あっ、ふっちーこけた! 」 小窓から覗く紗香は冷静に見たら面白いな。完全に“変な奴” 「紗香、トイレ行ってくる」 「あ、はーい」 紗香は小窓を覗きながら、こっちを振り向く事もなくヒラヒラと手を振った。 『このままじゃ、嫌』か……。好きが募れば、そう思う。ただ、片思いを続けたいのであれば……このままでもいいのか?相手(ふっちー)に彼女が出来たら、私の場合はあの人に、彼女がいたら?好きな人がいたら?考えたくない。 それって結局……自分が、“彼女”になりたいって事、だよね。 2回しか会った事のない人の、私は彼女になりたいのか。話した事も、名前も知らないのに。 校舎から出て、遠目で小窓の辺りを見る。紗香がいない。少し視線を動かすと、どうやら、バスケ部の休憩時間らしく、紗香は……ふっちーと話していた。 ここから見てもわかる、紗香の緊張した顔!これは絶対に紗香から話しかけたんじゃないな。不可抗力だ。仕方ない、助けてあげるかぁ。そう思ってそっちへと向かって歩いた。
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