第4話

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いや……待てよ? 『このままじゃ、嫌』紗香はそう言った。ここで私が入れば、私とふっちーだけが話す構図が出来てしまう。 私は紗香とふっちーの声が聞こえる程度には近付いて、様子を伺った。 「何で上で見ねぇの?」 「いや、ここがアリーナだよね」 ……絶対違うよ、紗香。 「いや、アリーナは、フロアだろ。ま、フロアは関係者って感じだから2階が無難……つーか、こっから女バス見えんの?」 ふっちーはさっちゃんの言った『私を見に来るの』ってのを信じてんだ。鈍い男だ。 「いや、今! 朱里待っててこっち来ただけで……朱里のトイレが長いんだよ、べ、便秘かなぁ?」 ……紗香……あいつめ。思わず出ていこうとした時 「あれ、お前ら知り合い?」 そんな声が聞こえた。バスパンの色からK高のバスケ部だ。 「おう! 同中なんだよ。お前らは……」 「同じクラス」 「席が隣なんだよ、な? 」 その男の子が、紗香にそう言った。“席が隣”その表現に聞き覚えがあって……ああ、紗香に告白したっていうAくんの事かと、思い出した。振られても普通に話せるって凄いな、Aくん。そう思って、こっそりAくんの顔を物陰から見た。  モテるって聞いてただけあって、背も……バスケするなら大きくもないのかもしれないけど、ふっちーと同じくらいで、その二人に囲まれた紗香が小さく見える。  Aくんには自然な笑顔を向ける紗香に……苦笑いする。それに、紗香を好きなAくんには……あの笑顔は罪だなって思う。遠目に見ている私だけが分かる、三角関係。 そこから立ち去るA君が振り返った姿に、私は足が動かなくなった。  汗で濡れた髪で……私が以前見た、たった2回とは雰囲気が変わっていた。それに……制服じゃなかったから。違う人だと、いいのに。 だけど、この胸の高鳴りとこの苦しさは……“彼”だって、言ってる。  両手で口を押さえて、しゃがみ込んだ。見つけた。やっと見つけた。紗香に、さっき話してた人なの!そう言えば……名前も知れるし、この後、話せるかもしれない。 彼が……Aくんじゃ、なければ。 ピーッと笛の音が鳴り、私は正気に戻った。 「遅かったねぇ! 何、便秘ー?」  紗香のこんな言葉にも言い返せない。 「ねぇ、紗香って席どのあたり?」 「はぁ? 席? 窓際の後ろから3番目」 ……反対側の隣の人だったらなぁ。そう思った微かな希望は『窓際』の一言で砕けた。
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