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 何事もスタートが肝心だ。  前の学校では、入学直後から失敗していたからな。登校してすぐに、自分の席から動かずに、ラノベ(俺はカバーをつけない派)を読み耽るような奴じゃ、彼女はおろか、友達すらまともにできない。  気づけば、周りにいるのは同じオタクの男ばかり。気に入ったアニメの話をしたり、漫画やラノベを交換したりするのは、確かに楽しい。でも、それで俺の青春を使い果たして、本当にいいのか?  父が転勤することになって、両親は「どうする?」と俺に選択を委ねた。 「学校の友達と離れたくないなら、父さんは単身赴任するけど」  母は専業主婦だし、交友範囲も(俺に似て。いや、俺が似て、か)あまり広くない。だから、学校というコミュニティに所属していて、引っ越すことで別の集団に入らなければならない俺のことを気遣ってくれている。 「いや、俺も一緒に行くよ」  悩む素振りも見せず、即答した。親父は、「お? おお……いいんだな?」と、パチパチ瞬きをした。いいんだよ、と重ねてプッシュすると、それ以上の念押しはなかった。  親父。俺はクラスの人気者ではないし、どっちかといえば空気なんだよ。……言ったら悲しくなるので言わないけど、そこは察してくれ。  毎日毎日、これでいいのか、と悩む俺としては、転校は願ったり叶ったりだ。友人皆オタク、という状況を脱して、新たな環境で心機一転、今までの自分とは違う俺を、前面に押し出してみようと思う。  教室の隅から見ているだけで、クラスの中心人物の周りは楽しそうだった。あの輪の中に入りたい。彼女だってほしい。そんなお年頃なのだ。  そのためにはまず、形から。にじみ出るオタク臭を、少しでも抑えたい。 「明日川(あすかわ)(たすく)です。よろしくお願いします!」  奇抜なことは言わない。あくまでも爽やかに。笑顔を作って、自己紹介をする。ぐるっと教室内を見回して、クラスメイトたちの顔を確認するけれど、目が合わない。みんな、俺の頭を見ている。 「ああ~……明日川、とりあえず座れ」 「はい」  担任が指したのは、廊下側の一番前の席だった。新学期の座席は出席番号順だ。「あ」すかわだから、妥当だろう。 「あとお前、始業式終わったら、生活指導室な」  日焼けの似合うナイスミドルが、白い歯を見せてにっこり笑う。一瞬、ここだけハワイの海かと錯覚した。
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