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 会合が行われる日、掃除当番で遅れる呉井さんがいない隙に、俺はこっそりと、瑞樹先輩に彼女の様子がおかしいことについて尋ねてみた。  ちなみに、最初に仙川に聞いてみたら、「はぁ? 円香様がおかしい、だと? 貴様、馬鹿にしているのか?」と、キレられた。  なんなんだこの人。悪口で(頭が)おかしいって言おうとしているんじゃないのに、それこそ本当に、頭おかしい。  いい大人のくせに、お話にならない仙川を無視する。呉井さんと仙川のコンビと付き合っていると、自然とスルースキルがレベルアップする気がする。事実、瑞樹先輩は俺と仙川のやりとりも、黙ってにこにこ、インスタントのコーヒーを啜っていた。 「最近、呉井さんがぼんやりしてて。瑞樹先輩なら、何か理由を知ってるんじゃないかな、と思ったので」  彼は紙コップを机の上に置いた。気品ある動作は、百円ショップでまとめ買いしたコップではなく、白い陶器のコーヒーカップを扱っているかのようである。 「まどちゃんはね、雨が嫌いなんだよ」 「雨が……?」  奇特な人間以外は、雨はあまり好きじゃないだろう。俺だって、雨を歓迎するのは面倒な学校行事がつぶれることを願っているときくらいだ。多かれ少なかれ、雨の日は憂鬱になるけれど、呉井さんの気落ちしている姿は、ただの雨嫌いというのとも、違う気がするのだ。  納得できない俺を、瑞樹先輩は見透かしている。 「僕から言えるのは、これだけ。あとはまどちゃんに、直接君が聞いてごらんよ」  これ以上俺の質問に答えてくれることはない。食い下がるのも時間の無駄なので、俺は諦めて、テーブルの上に置かれた今日のおやつに手を伸ばした。  本日のおやつは、ブルボンのアソートパックだ。お値段は庶民の味方、味はかなり美味しい。呉井家や日向家の三時のおやつは、勿論もっといい物が出るのだろうけれど、彼らもこれを気に入っている。俺はルマンド派。  ごみは後でまとめて捨てるので、机の上に放置されたままである。ふと、いつもよりも、ごみの数が少ないことに気がついた。  いや、ごみだけじゃない。普段なら、このアソートパック、三袋は購入している。そしてその大半は、瑞樹先輩の腹に収まるのが常だった。けれど、今日は一パックしか見当たらない。思わず、瑞樹先輩が隠し持っているのでは? と考えてしまい、探るような視線を向けてしまった。
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