告白の欠片

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 だけど、千尋の隣にいた別の銀行員の言葉が耳に飛び込む。 「随分と粘り強く交渉したんですよ、担当の責任だとかで」 千尋が新規に顧客を開拓し、取引交渉を成立させてから銀行に話を持ち帰ったという。 「どうして、いや、本当に有難い。ありがとう」 父は喜んでいたけれど、私は聞きたかった。 「千尋、待って……!」 家を出た千尋を追いかける。千尋は私に気が付いて、一緒にいた銀行員を先に帰らせた。 「歩きながら話そうか」 二人で肩を並べて。駅前にある千尋の銀行までの距離をゆっくりと歩きながら話した。 「茉奈が本気で結婚相手を見つけてくるとは思わなかった」 「だって、倒産なんて…… させたくないもの」 賢人の助けが必要だった。他には手段も無く。 「茉奈、これで君は自由なはずだよ」 「私……の為……?」 千尋は笑ってた。肯定も否定もしない。千尋の気持ちがわからなくて、私はパスケースを取り出す。
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