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私の部屋で千尋は壁に貼られたコルクボードの写真を眺めてた。
「懐かしいなぁ、皆今は何をしてんだろうな」
「海外に行ったきりの人もいるわよ。結婚した人も」
あたたかな湯気があがる。淹れたての紅茶の香りが優しく辺りに漂う。
今なら聞けるかもしれない。そんなふうにも思えてしまう他愛もない会話が続いて、ようやく千尋が笑顔を見せた。
「なんだ、やっぱり千尋だわ」
「仕方ないだろ、さっきは仕事中」
大好きだった頃よりも大人びた、穏やかな男性の表情に胸がどきどき高鳴る。
でも、私は今日から必死で婚活をしなくちゃならない。
「茉奈、俺さ。あの日のこと、ずっと謝りたかった」
あの日。それがいつなのかは聞かなくてもわかる。
手紙がふたつに引き裂かれた―― 千尋と最後に会った日のことだ。
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