第三話 握手

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第三話 握手

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 追い打ちをかけるかのように 1時限目は男女別の体育だ 正直きつい 俺と佳奈は別クラスなので かなり羨ましい だが幸い競技は格闘技だったので (元)空手部の自分としてはかなり助かった 運動着を着て 体育館に移動し 準備運動を済ませた所で クラス一の巨漢である軽井沢君から話しかけられた 君付けなのは当然 俺がコミュ障だからである クラスメートで仲がいい人などほぼほぼいないに等しいし 昼飯とかは大抵あの4人で食べるので寂しくなく あまり友達について考えたことがなかった 「神崎ィくゥん今日は格闘技同じペアだねェ」 よく見ると体育館の壁に一つ飾ってあるホワイトボードに格闘技で対戦するペアが飾ってあった ホワイトボードが小さくて見えにくく気がつかなかった そして確かに俺のペアの欄には『軽井沢 武』と書いてあった  「あぁ、確かにペアだな、よろしく」 「そンな無愛想の挨拶しなィでくれよォ、仲良くやろうぜェ神崎くゥん」 そう言うと軽井沢くんは笑顔で握手を求めてきた クラスメートだし 確かに仲が良くて損はないかと思い 握手に応じ 右手を差し出した 「よろしくゥ」 「あぁ、よろしく頼む」 メキャ 鈍い音が響いた 朝の荷物運びもあり 完全に油断していた 完全に仲良くなれると勘違いしていた そう 軽井沢は俺の手を 何の躊躇もなく 笑顔で握りつぶしたのだ 「ッッッ!!?」 辛うじて声は上げなかったが あまりにいきなりの出来事で少し頭が混乱して しばらく何も考えることができなかった 「神崎ィ!おまえェ!気に食わないんだよォ!少し頭が良いくらいでスカしてんじゃァねェ!」 『気に食わない』?そんな理由でこいつは人を傷つけるのか? いや 人を傷つける理由なんてそんなものなのか? ―胸の奥に何かが込み上げてきた 周りにほかの生徒も居て 気が付いた生徒もいたが 軽井沢の巨漢を見ると怖じ気づいて見て見ぬふりをする さすがに俺もそれを責めることはできない  体育の教師もいたが 軽井沢の親は金持ちで 学校に対してかなり大金を寄付しているようなので教師も手が出せないようだ ―その事実にもまた何かが込み上げてきた 「あァ!そういえばお前ェ!親いなかったなァ!どうせお前の親もスカした態度の悪ぃやつだったんだろォなァ!」 ―何かが切れた 自分がバカにされるのならそれでいい 受け流せるから しかし 他人を しかも自分の親がバカにされた その事実に俺はものすごく腹が立った 立ち上がり 軽井沢の目を見る 少し怖じ気づいたような気もしたが 未だに攻撃的な姿勢は変わらない  「体育か…なら多少ケガしても…それは事故だよな」 「なァにブツブツ言ってやがるゥ!」 その言葉が開始の合図であるかのように軽井沢はその巨体でタックルをしてきた なぜかとても俺は落ち着いていた 相手のデタラメなタックルが どのように動くか 大体予想できた 「フガァ!!!!???」 おそらく身長190cmはあるであろう巨漢は まるで蝶が飛ぶように宙に舞った 「空手の基本、受け流しだ。随分元気だな、わざわざ自分から飛びにくるなんて、思いもしなかったよ。」 もちろん軽井沢が自分から飛びに来たのではなく 俺が軽井沢のタックルを左の手の甲で滑らせるように受け流し 足をかけ 相手の勢いを利用してそのまま転ばせたのだ 「俺の家族を侮辱したんだ、それなりの覚悟は出来ているんだろう。まだ立てるよな?それともその大きな体は、ただの見かけ倒しか?」 そう言うと 軽井沢も怒り狂い 俺の胸ぐらをつかんできた が、 「そんなに怒るなよ、俺だってこう見えて結構怒ってるんだ」 俺は左手で相手の腕を払った 「これが下段払いだ。」 軽井沢が体勢を崩し 前のめりになったところで 俺は右手で軽井沢の顔面に裏拳を払った 「ガァァァァァァァ!!?痛ェ!」 軽井沢が地面に倒れた 怪我した方の手とはいえ 裏拳をまともに顔面に食らったんだ しばらく立ち上がれないだろう いつの間にかギャラリーも集まっていた 勝負あったな。と思い 保健室に行って手を手当てしてもらおうと 軽井沢に背を向けた すると 軽井沢はこちらに向かって猛突進してきた 隙をついて俺に攻撃する気だろう  周りは俺が気づいていないと思っているが 隙を見せたとき 軽井沢が何かしてくるのは予測していたので 軽井沢に向き直り 正拳突きを食らわせようとした しかし 「何ッ!?」 軽井沢は俺の体のどこを攻撃するか ということまでは予測できなかった 軽井沢はもう一度 俺の手に向かって強烈なパンチをしてきたのだ その速さと威力,狙いは正確で 直撃には至らなかったものの 右手の右甲に当たり まるで雷に打たれたような衝撃と痛みが体に走った 「がっあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 今度は我慢できず 声に出してしまった 骨が砕けたような音を掻き消すくらいの大声だ った 「ハハハハハハ!!所詮ンはそンなもンなんだろゥ!舐めやがってェ!」 完全にこいつはおかしい! それに気づくのが遅かった! 時すでに遅し 手はすぐ治しに行かないと本当に危ない状態に陥っている そしてそこまでやらかして 軽井沢が笑っていることが何より怖かった 人の感情とはここまで恐ろしいものなのだと思った そして俺にも「怒り」という感情が芽生えていた ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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