第七話 先生

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第七話 先生

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「う…うつ病って…あの…精神的な?」 「それ以外に何があるというんだい?」 淡々とした口調で片谷が答えた 「君は昔あんなことがあったからね…おかしくはないよ…」 「でも…!今までずっと憂鬱だったってことですか?そんなのあり得ない!とても耐えきれないじゃないですか!!」 自分は病気ということが現実味を帯びてきて より認めたくないという気持ちが大きくなり つい大きな声で反論してしまった いや それより家族が亡くなったのが原因で自分が病気ことの方が認めたくなかった すると 片谷はもう一度問いかけてきた 「君はさっき、不満はないと言ったよね、それは本心だろう?」 「あぁ!ない!それがどうした!何も思い浮かばないよ!」 本心だ  それが 日常だったから すると片谷はその言葉を聞いて 希望が無くなったような 顔をした 「その『何も思い浮かばない』がおかしいんだ…普通であれば…ケンカを繰り広げれば…ストレス、悩みなどという負の感情になるのが普通なんだ…」 知っていたのか 最初から ケンカのこと全てを いや それより 普通じゃない? は? 俺は確かに 家族はいない  でも でも それでも俺は 普通の中学3年生じゃないのか? 負の感情はない 勝ったし 話す必要はない 片谷にも クラスメイトとも それが 普通じゃない? おれが おれじゃない? 「落ち着け!!!」 片谷の声がした その声に おれは縋った 縋ることしか できなかった 「君は君自身だ!それは変わらない!君の記憶や思い出、それは本物だ!消えて無くなったりはしない!」 だんだんと落ち着いてきた 「あ…俺は…そうだ…俺は…俺だ…神崎仁人…」 片谷の声がする 「君は受けたショックに耐えきれなくなってしまっているだけだ!落ち着け!」 ただでさえうつ病でショックに悩まされているんだ 負けてたまるか 不安なんかに 「ハァッ、ハァ…」 「なんとか戻ってきたか、ショックを受けてパニックになって、そこから戻るのはとても難しいというが…やはり君は特別なのかもしれないな」 片谷が落ち着いた言葉で言う しかし俺は戻れてきたことより 特別という言葉に惹かれていた 「『特別』…?」 片谷もその言葉に気づいてくれると分かっていたかのように 少し微笑みながら話しはじめた 「『異常』であることは 普通ではないということ、異常という言葉は嫌な意味にとられ易いが、『異常』であることは、『特別』であることでもある。『異常』だからこそできることが、きっとあるはずさ」 優しく慈悲深いその声の説得力は『普通』ではなかった 「…どうしてここまで、やってくれるんだ?いとことはいえ…」 すると変わらない声音で片谷は答えた 「私は先生だからね、生徒を助けるのは当然さ」 傷の手当ては いつの間にか終わっていた ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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