ZERO―手紙―

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「えっだって……」  その言葉に、睦実はとまどった。睦実にとって「家族」と言うものは、全員血が繋がっているものだったのだ。 「お母さん達が忙しい時に、睦実達を海に連れて行ってくれるのは、誰? 釣りの仕方を教えてくれるのも、泳ぎ方を教えてくれるのも、お正月にお年玉をくれるのも、菱原のおじいちゃんと荒河のおじいちゃんでしょ?」 「うん……」  どちらの祖父達とも別々に暮していたが、父方の祖父も母方の祖父も、睦実や姉の実浩(みひろ)のことを、とてもかわいがってくれていた。 「だったら、血が繋がっているかどうかなんて、関係ないじゃない。どっちも、睦実の本当のおじいちゃんよ」  ポンポンと、濡れ縁に置いた布団を片手で叩きながら、母は言った。 「それにね、睦実の血の繋がっているおじいちゃんのことは、お母さんも知らないのよ」
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