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あれから数週間後。何事もなく無事に退院する日が来た。凄く平穏な日々だった。組同士のいがみ合いもなく、命の危険性もなく。当たり前だが親父(組長)との諍(いさか)いもなかったな。毎日やっていたのが嘘みたいだ。心に余裕が出来るとフッと考えるのは高校に通う弟の事。 思い出せば、あれは衝撃的だったな。いつも無口で何を考えてるのかよくわからない弟がいきなり「友だちつくって高校生活を楽しむ!」と意気込み親父に直談判に行って殴り合いの大喧嘩になってたな。親父の部屋が半壊したのは記憶にある。 まぁ、あの様子ならずっと思っていたのかもしれないが、、、家の都合上、自由にするのは難しい。組長の息子なら尚更だ。 親父の部屋を半壊させた後、高校生活を自由に過ごす権利をもぎ取って来た事でアイツの本気具合いがよく分かる。が、それ以前に家の男衆は例外なく凶悪な顔をしている。友だちが出来るのかも危うい。普通の奴らならば近づいてこないだろう。 ぼんやりと考え事をしながら適当に服などを鞄に詰め込んでいると鈴ちゃんから「裏口に車をつけてあるからそっちから事務所へ向かうからね。持ち帰るもので片付けるのある?手伝うよ。」と声が掛かった。 「あぁ、頼む。後、冷蔵庫の中のを仕舞えば終わる」 返事を聞くと手慣れた手つきでパパッと冷蔵庫の中のものを鞄に綺麗に仕舞っていく。横目でチラッと見て何とも言えない感じが込み上げてきた。これが性格の差ってヤツか、、、俺も少しは家事なども出来るようにしとくか。 軽く変装して裏口につけてある車の後部座席に言われるまま乗り込んだ 聞けば社長など上層部も俺の事情を知っているらしい。まぁ、当然か。 このまま事務所へ行く事になっており、龍と空は既に事務所へ行っているらしい。 病室から見る景色と違い新鮮さがあるが、言うまでもなく見たことない景色だ。懐かしさの欠片も感じない。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 事務所へ入ると直ぐに社長室へ通された。 「響、久しぶりだね。と言っても君とは初めましてかな?」と言って俺に話しかけてきたのは恐らく社長だ。思ったよりスタイリッシュで優しげな印象を受けたが、結構なやり手だろう事は分かる。 「初めまして"槙"です」と新たな人格として認識されてしまった名前を名乗って頭を下げておく。組に居た時は下げられる側だったので新鮮だな。 社長は何を思ったのか少し考える素振りを見せたあと、自然体で話してくれと言ってきたので頷き、促されるまま高級感がある黒い革製のソファーに腰かけた。 *
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