魔法使いの沼地

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しばらくすると、ラルフが戻った。 「今日はチキンを持って来てくれたよ。」 ラルフは、そう言いながら、前足で気持ち良さそうに顔を洗う。 「チ…チキンって…」 リオは、ちらりとレヴィの方を見やったが、当のレヴィはそんなことは少しも意に介してはいなかった。 「大丈夫だって。 こいつは、人間の言葉はわからないんだ。」 「そ…そうなの…」 「ところで、おまえは何か食べたのか?」 「いや、僕は……」 「そうか……食べたくないなら食べなきゃ良い。 腹が減りゃあ、食べれば良いさ。」 「……そうだね。」 「人間って奴は、どうも余計なことを考え過ぎだ。 時には、俺達を見習って、自然に過ごした方が良い場合もあるってことさ。」 ラルフはそう言って大きな口を開けて欠伸をし、その場に丸くなる。 (そうだね…… 君の言う通りかもしれないね… 自然のままに流されて、ありのままを受け入れて… それが一番なのかもしれないね…) ラルフのなめらかな毛並みをなでながら、リオは心の中で呟いた。 * 「ねぇ、ラルフ… 君はどうしてこの沼地を出ないの?」 昼近くになって、ようやく目を覚ましたラルフにリオが尋ねる。 「どうしてって… そうだな、まぁ、第一にはここにいたらこいつが安全だからだ。 ここには天敵がいないからな。 第二に、これと言って行きたい場所がない。」 「……そっか……」 「……おまえ、魔法使いを探しに行きたいのか?」 「えっ!?い…いや、別にそういうわけじゃ…」 リオは慌てて首を振る。 「そりゃあ、そのままじゃ厄介だよな。 ここで魔法使いを待つっていうのも出来ないことはないが、いつどこに現れるかはわからないから、ここにいたって会えるかどうかはわからない。 かといって、探しに行っても会えるってわけじゃないよな。 だけど……」 不意にラルフの言葉が途切れた。 「だけど、何?」 「……いや、ここにずっといるよりは旅に出た方が楽しいだろうと思ってな。 おまえが一緒にいてくれるんなら、こいつもめったなことにはならないだろうし……」 「そ、それじゃあ、僕と一緒に来てくれるの!?」 「俺は別に構わないけどな……」 その時、レヴィが歌を歌い始めた。 それは、心の躍るようなどこか不思議な歌声だった。 「ラルフ!レヴィ、一緒に行こう! 外の世界はきっと楽しいものに満ち溢れているよ!」 自分の口をついて出た言葉に、リオ自身、少し驚きながらも、その心は希望と期待に膨らんでいた。
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