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あまりに気味が悪いので、写真を撮って、インスタグラムのストーリーに投稿した。
『カバンの中にはいってた。気持ち悪い』
つぶやくような位置に文字を添える。
それを読む閲覧者の数を、私は指折り数えた。
ゼミの友人からのバッドマーク。涙の顔文字。私は頷く。幼い道路の、朝の混雑がやけに湿気っぽい。
電車を降りた私のカバンに入っていたのは、一枚のメモ書き。正方形の、いかにも切れ端のような紙だ。
そのしなびた四つ折りを開くと、電話番号と、ラインのアイディーと、名前。それに、愛の告白が、悪にうねる呪文のように。
『一目惚れしました。付き合って欲しいです。連絡ください。』
「春菜、何回め? まじで、やばいって。警察に言いなよ」
無機質な教室にたどり着けば、隣の席の茶色い髪の毛が、スマホを片手に、赤い口でものものしく助言をする。
その横顔は、ちっとも心配そうではない。ヤサイセイカツの紫色のストローに、オレンジのリップがこびりついていて、不潔だ。
「警察なんて、大げさだよ。しばらくしたら、きっと諦めるって」
「何かあってからじゃ、遅いんだよ?」
「わかってるって」
かたちだけの納得。興味のない視線。私は、彼女の脳内を知っている気だった。
「ま、なんでもいいんだけどさ」
友人はほんとうに興味がないようすで、スマホの彩りに集中しなおした。
私は不満だった。毎日、私がストーカー被害に遭っているというのに、誰しもが私に無関心だから。
くだらない閲覧にしか使わないスマホすら、かいがいしく、落下防止のリングを付けるというのに。
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